☆ ページ10
…
「センセイってさ、なんで職員室で仕事しねぇの？」
緊張して深呼吸したせいか、部屋に充満した太陽の匂いが
胸にたまった。
日差しに打たれ、ぐったりしていた校庭の夏草に親近感を
覚えつつ、重い頭を持ち上げる。
センセイのＹシャツのラムネ色だけが、嘘みたいに涼しい。
「あんまり合わなくて…」
「他の先生と？」
うーん、ていうか…。
「人類と？」
「なんだよそれ…」
センセイの鉛筆は今日も止まらない。余りにもなめらかで
滞りなくて、邪魔して困らせたいのに、それもできなくて。
「じゃあさ、俺はなんなワケ？」
宇宙人？と、こわごわ投げかけた。
いつも通り、炭酸の泡みたいな返事しかもらえなかったら
どうしよう、って。
「やぶくんは、、やぶくん」
「…意味わかんねーっ」
そうやって俺が飽きるまでここに置いて、のらりくらりと
あの日が風化するのを待つつもりなら、センセイは馬鹿だ。
センセイがコスプレしてたなんて、言いふらしたところで
どうせ誰も信じやしないのに。
「……やぶ、く…」
センセイが「俺に変なことされた」ってわめいたところで
誰も信じやしないのに。
…
「……怒んないんだ？」
机に貼りついた頬を剥がして、下から狙い澄ましたキスは
メンソレータムの味がした。
センセイは「可愛いですね」と、平気でコメントしそうな
顔で俺を見上げている。
「悪いセンセイだな」
振り返らず部屋をあとにした。
廊下の角を曲がった踊り場で悔しさに任せて地団太を踏み
旧校舎の古びた窓が軋む。
…
「教科書34ページ、核家族化について…」
センセイの授業が滞りなくはじまって、憂鬱でしかない。
窓の外では夏草がこうべを垂れている。
「……先生 」
突然、鈴木が申し訳なさそうに手をあげた。
センセイは黒板の縁にチョークを置いて、どうしたのと
目で問いかけている。
「それ、先週やりましたけど…」
センセイは誰かに停止ボタンを押されたように固まった。
俺も固まった。
センセイの顔が漫画みたいに真っ赤に染まっていくのだ。
「えっ、あっ、ごめんっ…今日はどこだっけ…っ」
センセイが慌てふためきながら、書いたばかりの板書を
消していく。
こっち向いてよ。あぁもう黒板になりたい。
今までのセンセイを、丸ごと許してしまえる光景だった。
いつも冷静なのにね、何かあったのー？と、教室が煩い。
センセイは俺とキスしたんだよ。
どうせ誰も信じないけど。
☆次回☆
シャッターの音に、試される運命
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しょこる(プロフ) - きょーかさん» 連載中も素敵なコメント頂けて、楽しく書き切ることができました(*^^*)ありがとうございます＊たまにはやぶくんとセンセイに会いに来てくださいね。よかったら他のお話や次回作もよろしくお願いします☆彡 (2019年11月28日 18時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ちちちさん» 最後までお付き合い下さり、ありがとうございます☆キラキラした気持ちをお届けできて嬉しいです＊私もセンセイには掴み切れないふんわりパステルピンク。そんなイメージを持っております*^^* (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - Yokoさん» いつも身に余るお言葉ありがとうございます＊ナチュラルに何年も我慢してきたやぶくんですからね、、そりゃもう朝から昼からオオカミでしょう笑★もちろんセンセイも満更じゃないです(//-//) (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» タキシード仮面…！！★世代的にもキュンキュンしてしまう喩えをありがとうございます(*^▽^)/ ややこしいことに巻き込まれまくってきたセンセイが、いよいよ幸せになる番です＊ (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - みるみるみるきーさん» 長らくお待たせいたしました…(´ω`)ひと夏の経験で終わってもおかしくない恋でしたが、何年かかっても終わらない途切れない、それがこの２人です。これから可愛いお家で恋人を楽しむことでしょう〜(*^-^*) (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年3月14日 22時
