☆第３話：魔法の鍵で、ココロの手錠外して ページ8
…
センセイが「また来週」と言って、教室を出ていく。
俺は鉄砲玉みたいに飛び出して、その背中を追った。
センセイは生徒でごった返した廊下を糸でつられた
操り人形みたいにのらりくらり、と歩き、
そのうち誰もいなくなって、猥雑な声も遠くなった。
センセイは自分の影を引きずるように、鍵の壊れた
あの部屋に吸い込まれていく。
「センセイ？」
「わっ、」
カチャン、と危なげな音がして、思わず駆け寄った。
センセイは本棚のきわまで転げたガラスのカップを
両手でせき止めながら、俺の顔を見るなり、ほっと
肩を撫でおろしたようだ。
「……つけて来たの？」
「人聞き悪いなぁ」
センセイの手から華奢なカップを
指の先端に引っかけて左右に揺さぶると、ガラスに
ほどこされたカッティングが太陽の光を乱反射して、
センセイのなめらかな首筋をぴかぴか、と照らした。
切れ味の良さそうな三角形の光が。
「センセイ、俺に言うことあるでしょ？」
センセイは困ったように首をさすって、Ｙシャツの
襟が口を開けるようにひしゃげた。
教壇から降りたセンセイは俺より背がちいさいから、
なかの方まで見えそうだ。
「……さっきは、ありがと」
「それだけ？」
センセイはしきりに唇を触って目を泳がせるだけで、
うんともすんとも言ってくれない。
その癖ヒントをせがむような目で見つめてくるから、
代わりにカップを返してあげた。
俺にも"これ" という欲しい言葉は浮かんでいなくて、
棚からぼたもち的な何かを期待していただけだから。
「あー、次サボろっかなー……現国つまんないし」
ガゴンガゴン、煩い椅子に座って事務机につっぷす。
センセイは人質だったカップをしばらく眺めてから、
俺の向かいに腰かけ、授業の最後に集めたノートを
１冊、慣れた手つきで広げた。
センセイが紙をめくる音を、ざらついたチャイムが
打ち消す。
老いぼれたスピーカーだけが「早く授業にいけ」と、
真っ当なことを言った。
「怒んないんだ？」
「……おれも人のこと言えないからね」
カリカリ、と、鉛筆の走る音が癖になりそうだった。
痒い所に手が届くような、でもくすぐったいような。
「センセイはちゃんと仕事してるじゃん」
人さし指を
センセイが鉛筆を走らせる細かい振動が指に伝わり、
呪いがかかったように動かなくなった。
「おれも嫌なことから逃げてここにいるから。
……やぶくんと一緒だよ」
…
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しょこる(プロフ) - きょーかさん» 連載中も素敵なコメント頂けて、楽しく書き切ることができました(*^^*)ありがとうございます＊たまにはやぶくんとセンセイに会いに来てくださいね。よかったら他のお話や次回作もよろしくお願いします☆彡 (2019年11月28日 18時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ちちちさん» 最後までお付き合い下さり、ありがとうございます☆キラキラした気持ちをお届けできて嬉しいです＊私もセンセイには掴み切れないふんわりパステルピンク。そんなイメージを持っております*^^* (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - Yokoさん» いつも身に余るお言葉ありがとうございます＊ナチュラルに何年も我慢してきたやぶくんですからね、、そりゃもう朝から昼からオオカミでしょう笑★もちろんセンセイも満更じゃないです(//-//) (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» タキシード仮面…！！★世代的にもキュンキュンしてしまう喩えをありがとうございます(*^▽^)/ ややこしいことに巻き込まれまくってきたセンセイが、いよいよ幸せになる番です＊ (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - みるみるみるきーさん» 長らくお待たせいたしました…(´ω`)ひと夏の経験で終わってもおかしくない恋でしたが、何年かかっても終わらない途切れない、それがこの２人です。これから可愛いお家で恋人を楽しむことでしょう〜(*^-^*) (2019年11月28日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年3月14日 22時
