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…
その夜。
クタクタだった俺達は直行したベッドで肌を寄せ合い、
ひかるは羊でも数えるようにわがままばかり口にした。
眠るまで頭を撫でて。もっと好きって言って。
明日はおれの好きな場所へデートに連れて行って、と。
まるで、ひかるを疑った俺の罪悪感を持ち去るように。
「…どこ行きてぇの？」
ひかるはふぅん、と、鼻からぬるい息を吐いて、胸に
すり寄った。手櫛を通した髪は沖縄料理の匂いがする。
「やぶがぜったいに興味ない場所」
「はっ、なんだそれ」
ひかるが首に巻きついて、「教えなーい」と揺れ笑い
興味を持てない場所など、世界のどこにも無いように
思えた。
長い夜だった。
…
「植物園？」
「んーん……ハーブ園だよ」
ローカルバスに揺られること数十分。そこは片田舎の
小洒落た庭園が何ヘクタールも広がっているような
心地のいい場所だった。
レンガ造りのカフェ、ココア色のハンモック、何より
印象的なのは、その匂いだ。
ほろ苦くて、くすぐったいような香りが鼻腔を抜ける。
「ここ来てみたかったんだぁ」
「ふーん…」
焼き菓子みたいな花壇の間を散歩しながら、ひかるが
ハーブの名前を教えてくれた。
「実家の庭に色んなハーブが植わっててね、
子供の頃から匂い嗅ぐのが好きだったんだ」
ひかるはつま先立ちで、ローズマリーに鼻を近づけた。
小魚みたいな形の葉っぱに薄紫の可憐な花がチラチラ
笑っている。
「ラベンダーが１番好きなんだけど…
まだちょっと時期が早いみたい」
残念そうな横顔が切なくて、宙ぶらりんの手を捕まえ、
「咲いたらまた来ればいーだろっ」
と、コートのポケットに押し込む。
熱い手を握って、石畳を歩き、「あっ」と思ったのも
束の間。
背の高いハーブが生い茂る角を曲がったところで突然
ひかるが駆け出し、ふわっと見失った後ろ姿を探して
花壇の間を走った。
「やぶっ…！！」
風が吹いた。力強い風だ。
淡いミントの匂いにぶわりと背中を押され、ハーブの
ベールの向こうで振り返ったひかるが、無邪気に笑う。
「おれ、やぶが好きだよっ…！」
その一瞬、コートを着ていたはずのひかるが真っ白な
裾を広げたように見えて、疲れてんのかな、と両目を
こすった。
ふと顔をあげれば、ひかるは隣にいる。
「なんだよ急にでかい声だして…」
「へへっ、」
ひかるの笑顔に感じたざらりとした不安を、ひかるの
笑顔が溶かす。出会った日から、その繰り返しだけど、
ひかるとならそれが絆になると信じて、小指を繋いだ。
…
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しょこる(プロフ) - みきさん» ほかのお話も読んでいただけるということで、、気に入るものがあれば嬉しいです^^ (2020年6月17日 18時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - みきさん» 素敵な言葉の数々をありがとうございます＊こちらはもうずいぶん前に書いたお話なのですが、こうして見つけていただき、感想までいただけて、羊ヘアのひかるくんが笑いかけてくれているような温かい気持ちになりました。 (2020年6月17日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 本当に素敵なお話を有難う御座いました。他作品もじっくり拝読させて頂きます、素敵な出逢いに感謝：：突然の長文コメントを失礼致しました、。 (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 紡がれる文字、全てに開いた口が塞がりませんでした。一気読みを終えた後、ホッとするようなあたたかい気持ちに心が溢れるだけでなく、言葉にできない高揚感をも同時に得たのははじめてでした。この感動をうまく言葉に出来ず稚拙な文での感想となり申し訳ないです、;; (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - はじめまして。コメント失礼致します。はじめてしょこるさまのお話を拝読致しました…なんで、どうしてもっとはやく出逢わなかったんだ私…！！としか思えませんでした、: : 設定や情景1つ1つに息を飲んだのは勿論のこと、それらを表すしょこるさんの言葉選び、 (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年2月14日 23時
