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「くっつくなよ、寝にくい」





わざとらしく寝返りを打った背中に八乙女がすり寄る。
やぶ手ぇつなぎたい…、って雨漏りみたいな声も寝た
フリでかわした。





「……おやすみ 」





八乙女が布団に潜り、互いの肩甲骨だけが遠慮がちに
触れている。途切れ途切れ夢ばかり見る拷問のような
眠りがつづいて、それは八乙女の夢だった気もするし、
親子丼だった気もした。

ライムグリーンに光るベッドサイドのデジタル時計は、
1時だったり、2時半だったり、3時過ぎだったりする。


ふっと、肩甲骨がさむざむしくなったのは、明け方の
ことだ。冷蔵庫から漏れ出る光りに、羽根虫みたいに
吸い寄せられていった。





「ごめん勝手に…っ」





八乙女は手の中で転がしていた缶ビールを慌ただしく
冷蔵庫にしまった。唯一の明かりを失った部屋は暗い。

目が慣れるまでは少し時間がかかる。



「…なかなか寝つけなくて、、」



寝酒に頼らなきゃ寝つけないぐらい、他に"よすが" が
いないと言いたいのだろう。たとえば俺とか、俺とか、
俺とか、俺とか。



「俺のせいだって言いたいわけ?」



雨漏りみたいな声だった。八乙女はゆっくり首を横に
振った。俺がさっさと過ぎ去ってほしいと祈っている
この時間を噛みしめるように。

怒って当然だもん…やぶは悪くない、と、下手くそに
笑った。





「おれ、やぶのこと、ほんとに大好きだから…
深いとこまで繋がるの、急に怖くなっちゃった」





八乙女はパジャマの胸に近い部分を握りしめて言った。





「やぶは知らないと思うけど、、おれ達みたいなのは
好きな人と付き合えるだけでも奇跡だし…。
ゲイのカップルは1年続けば長寿って言われてるから」





上から二番目のボタンがもげそうに、ひしゃげている。

八乙女が嫉妬深くて、束縛したり束縛されたりを強く
求めることを、<性格>の棚に片付けようとしていた
自分を責めた。

八乙女のボタンホールに合うボタンは圧倒的に少ない。
ひとつひとつを大切にするのは、ごく自然な事なのに。





「それでも、昔付き合ってた人とは1年以上続いたし、
お互い全部見せてたし、知らないことなんかなくて…
幸せだったのに…っ、…お別れすることになって…っ」





八乙女はさっきより強く胸を抑えて、はぁはぁと口で
呼吸をしている。
喉に穴が開いたんじゃないかと疑うほどの乱れように
どうしたらいいのかわからなくて、ただ足がすくんだ。

八乙女が握ったパジャマのボタンは取れかかっている。





「っ、やぶとあぁなったら嫌だよ…っ!!」





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しょこる(プロフ) - みきさん» ほかのお話も読んでいただけるということで、、気に入るものがあれば嬉しいです^^ (2020年6月17日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - みきさん» 素敵な言葉の数々をありがとうございます*こちらはもうずいぶん前に書いたお話なのですが、こうして見つけていただき、感想までいただけて、羊ヘアのひかるくんが笑いかけてくれているような温かい気持ちになりました。 (2020年6月17日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 本当に素敵なお話を有難う御座いました。他作品もじっくり拝読させて頂きます、素敵な出逢いに感謝::突然の長文コメントを失礼致しました、。 (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 紡がれる文字、全てに開いた口が塞がりませんでした。一気読みを終えた後、ホッとするようなあたたかい気持ちに心が溢れるだけでなく、言葉にできない高揚感をも同時に得たのははじめてでした。この感動をうまく言葉に出来ず稚拙な文での感想となり申し訳ないです、;; (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - はじめまして。コメント失礼致します。はじめてしょこるさまのお話を拝読致しました…なんで、どうしてもっとはやく出逢わなかったんだ私…!!としか思えませんでした、: : 設定や情景1つ1つに息を飲んだのは勿論のこと、それらを表すしょこるさんの言葉選び、 (2020年6月17日 15時) (レス) id: 6c7a20d5ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しょこる | 作成日時:2019年2月14日 23時

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