＊ ページ7
…
その声は黒猫のジジが別れ際に喉を鳴らすのに似ていて
否応なしに胸がソワソワする。
俺は、根っからの猫派なのだ＿＿。
「ぜんぶ俺が教えるから。一緒に練習しよう」
男は嬉しそうに、こくん、と頷いた。
こいつとはさっき出会ったばかりだけど、ずっと前から
欲しかった物が手に入ったような喜びに満たされていく。
どんな小説より、映画より、きっとこいつは面白い＿＿。
「おれ、着替えてくるね……汗かいちゃった」
男はそう言って小走りでベランダに近づき、ガラス戸を
全開にして、気持ちよさそうに深呼吸をした。
そのまま青空まで飛んでいってしまいそうな後ろ姿とは
対照的に、俺の頭には現実的なことが思い浮かんでくる。
「そうだ給料っ！たいして出せないかもだけど
劇団の奴らと相談して、ちゃんと払うからっ…」
逆光になっているせいか、振り向いた男の表情には色が
なかった。金の話はタブーだったのかもと、妙にあせる。
まるく開いた口からは、青い溜め息＿＿。
「……けーやく金は？」
男のずっと後ろの空を飛行機が通り抜けて、深くなった
影のせいで表情はほとんど見えなかった。
契約金なんて払ったことはないけど、今回は特別だから
無下にもできない。
「それもみんなと相談する」
「……今欲しい」
机に放り出していた財布を拾って、あわてて札を数えた。
ぜんぶ千円札だった。やけに小銭が詰まっていて重たい。
とにかくあるだけ抜き取ろうとするも、乾いた指が滑る。
「ちょっと少ないけど、とりあえずこれで、っ＿＿」
最初に感じたのは、手の甲が冷やっこい手に抑えられる
感触。それから、輸入もんの家具屋みたいな外国の匂い。
間近に迫って、見えなくなって、また間近でほほ笑んだ
煽情的な目配せ。ビー玉みたいに零れ落ちそうなパーツ。
追いかけるように、思い出したように、細かく痺れた唇。
「……けーやく、成立ね」
手の甲で唇を押さえて、またミキサーにかけられそうな
頭を必死で静めた。とうの男はベランダのガラス戸から
ひょっこり、とこっちを見て笑っている。
「じゃあまたね、監督っ」
俺は、とんでもない奴を拾ってしまったのかもしれない。
そう思った。
でも、あいつの気配が消えて、いつもの小部屋に１人に
なった瞬間、俺は床を踏み鳴らし、「よっしゃぁ！」と
掠れた声で叫んでいたのだ。
さっき出会ったばかりの男にキスされた唇で。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
