＊ ページ6
…
頭の中身がミキサーにかかったようにごちゃ混ぜになって
見当もつかない。
男はまるで自分の家みたいにベットにうつ伏せに寝転がり
床の漫画を拾って読みはじめている。
「ねぇまだぁ〜？」
「……もうちょっと待って」
男は両足をパタパタさせて、答えを催促した。
裸に毛皮、朝帰り、気まぐれ、漢字が読めない、自由奔放。
金持ちのじいさんに雇われて、こいつに何ができる＿＿？
「チャンスってまじで１回？」
「そうだよ。人生は１度きりだからね」
男が読んでいる漫画のタイトルは、『ノーモア・チャンス』
このままじゃ、心までミキサー地獄だと、床に座り込んだ。
「あーもう……」
その拍子に腕がぶつかったのか、文庫本の塔が崩れてくる。
昭和文学、ミステリー、純文学、海外のベストセラー作家。
重なり合った本の表紙の中で、強烈に目に留まった１冊を
そろそろ指で手繰り寄せた。
江戸川乱歩の『人間椅子』を＿＿。
「…………家具……」
口をついて出た言葉に、身体が乗っ取られていく気がした。
それはまるで用意されていた台詞のように、この小部屋に、
このシーンに馴染んでいる。
「……なんでわかったの？」
寝転んだまま顔だけこちらに向けた男は目を丸くしている。
と思ったら、突然、猫のように飛びついてきて、俺の腕を
ギチギチと掴んだ。
「じいちゃんはね、おれの背中で紅茶を飲んだり、
おれをひざ掛けにして本を読むのが好きなんだ。
紅茶はりんごの匂いでね、本は分厚くて難しいの」
星を閉じ込めたような瞳に嘘はなかった。
想像力のページがパラパラ、とめくれて、好奇心が踊って、
同じ世界に飛び込めたら、どれだけ楽しいだろうと思った。
「……さっきクビになったんだけどね、」
俺の知らない仕事。知らない世界。小説や映画の中だけの
話＿＿。だけど、こいつの寂しそうな顔はすごくリアルで。
肩を掴んで、こっちを向かせたくなって、それでそうした。
「なら、一緒に芝居やろう」
「……急だね」
「俺、どうしてもお前が欲しい」
「……」
男がうっとり赤面したように見えるのは気のせいだろうか。
ちょっと立ってみてと言われて、言う通りにすると、男は
品定めするような目で俺を見ながら、ぐるりと回りを１周
回った。
そして、下から掬うように俺の顔を見つめ、ふんふん、と
満足げに頷いた。
「おれ、漢字苦手だし、覚えも悪いし、
それに滑舌も………それでもいいの？」
あとでやっぱりいらないとか、嫌だよ、と男は甘えた声で
言った。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
