カラット＜yb×hk＞

12カラット ページ41

…



「薮、ちょっといいか？」
「…おう」



チケットのもぎり担当に呼ばれ、劇場の外に出た。
開場１時間前にも関わらず、十数人が列を作っていて
さらに彼らの持ち物を見て仲間と首をかしげた。
本格的な一眼レフやビデオカメラに、やけに大きい鞄。

劇場内はもちろん撮影禁止だ。



「すみません。劇場内撮影禁止なんですけど…」
「あ、俺達プレスなんで」
「……プレス？」



小劇団に取材？こんなに何社も？
ひかるなら素直に、取材だわーいって喜んだであろう
光景も、小心者の俺には、死神の行列みたいに見えた。

ビデオカメラをぶら下げた男は、黒い鞄を漁っている。





「これの取材ですよ。例のファム・ファタール」





今月発売の週刊誌だった。
他人の不幸を餌にする奴らの作った物に興味はなくて
触れるのも初めてのシロモノ。

安っぽいざらざらした紙に刷られたひかるの微笑みは、
印刷ミスか黒目が欠け落ちている。





「っ、ひかるッ！！」





舞台の端っこで衣装係とヘアメイクに囲まれていた
ひかるの腕を引っ張って舞台袖に連れていく。
ろくに楽屋もない小劇場でふたりきりになれる場所
なんかなくて、ベニヤが剥き出しの壁際にひかるを
追い詰めた。



「お前、誰かに話したのか？」
「なにを？」
「だからじいさんのこととか、ダイヤのこととか、
逮捕されたこととかっ、とにかくそういうの…っ」
「…なんで？」



他人行儀な表情に苛立ちが募った。
コンビニまで走って買った雑誌、関係ないページを
ざくざくめくって、例の特集ページを開いて見せる。



「週刊誌にお前の記事が載ってんだよッ！！」



ひかるはじゃこみたいに目を細くして、黒インクで
べったり刷られた煽り文や、ページの半分を占める
自分の顔写真を凝視している。





『大物会長と元官僚を破滅に導いた愛人
ファム・ファタールが舞台デビュー！！』





ひかるが週刊誌に手を伸ばしてきて、渡すもんかと
高く持ち上げた。
ひかるを傷つける言葉と脚色で溢れた最低な記事だ。





「誰に話した？」
「ん〜……」
「思い出してっ」
「う〜んっ……」





………あ。





「留置所で会った……芸能関係の人」
「具体的に何の仕事してるって？」
「そこまで聞いてない……とにかく芸能関係だって」
「……そいつが記者だ」





ベニヤの壁にゴツンと頭を打ちつけた。
誰にも内緒だぞって、クギを刺しておかなかったこと、
想像力の足りなさ、これ以上悪いことは起こらないと
安心していた自分が悔しくて＿＿。



「悪い人じゃなかったよ…」
「これ読んでから言えッ、」



…

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