カラット＜yb×hk＞

11カラット ページ38

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刑事コロンボとかストロベリーナイトとか、警察物の
小説はそれなりに好んで読み漁ってきたから、
逮捕＝悪人じゃないことは、頭では重々わかっていた。



被疑者は逮捕ののち最大20日間こう留され、その間に
取り調べや捜査を受け、起訴されるかどうかが決まる。

この国で起訴された場合の有罪確定率は、99.9%＿＿。





「やぶ、雑誌持ってきてくれてありがとっ。
もぉ〜暇で暇で死にそうだったからさぁ〜」
「……いきなり差し入れの話かよ」





ひかるが留置場にこう留されて１週間が経った木曜日。
やっと面会が叶った。

逮捕された当初は、取り乱してばかりだったひかるも
じいさん達が弁護士をつけてくれたことで落ち着きを
取り戻したらしい。

俺の前で強がって、空元気が出せてしまえるくらいに。



「そっちはどう？窮屈か？」
「ん〜……１人部屋だから思ったより快適かな」
「……それはよかった」
「ん？」
「男ばっかだから……なんかあったらやばいし」
「ふふっ、おれが可愛いから心配？」
「……あほか」



ひかるが前かがみになってふくよかに笑うと、２人を
隔てている透明な壁がほんの数秒くもって消えた。
俺も知らぬ間に前かがみになっていて、ひかるの頬の
うぶ毛まで見えている。



「おれね、いろんな人に舞台の宣伝してんの。
こっから出たら面白い舞台やるから見に来てねって。
……まぁ取り調べのときに言ったら怒られたけど、」



考えないようにしていた、ひとりぼっちで取り調べを
受けるひかるの姿が、四角い部屋が、嫌でも浮かんだ。

上手く笑えず、ひかるにまた笑顔を作らせてしまった。



「それでね、芸能関係者だって人にたまたま会って
その人に芝居見てもらったんだ。
そしたら筋がいいって。本番も見に来てくれるって」
「……へぇ、すげぇじゃん」



この四角い箱の中でどんな芝居をしたんだろう。
自慢げなひかるの瞳は、いつか２人で眺めたあの海面
みたいにキラキラと輝いて、ひかるの胸に灯った火は
けっして消えちゃいないってことを、俺にわからせた。





「おれこっちでも毎日練習してるから。
心配いらないよ」





ひかるが健気で、俺の方が励まされる。
公演の延期は待ってくれって仲間に頭を下げる毎日を
明日からも胸を張って続けよう、と。





「サボったら忘れちゃうもん、、おれバカだからさ」





ちいさな声が重く響いて、事件のことも含めてバカと
言ったと察するにたやすかった。

そんなことないよって口にするのは、優しさじゃない。





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