9カラット ページ31
…
心底甘いなぁ、と思う。
俺はひかるのはじめての脚本だけでなく、はじめての
恋人としての日々も、手を抜けなくなってしまった。
一緒に風呂に入り、晩飯を食い、眠るまでそばにいる。
ひかるが眠ったらひとり起き出して、机にかじりつき
寝息をBGMに脚本を書いた。
そんな生活は、アラサーの骨身に堪えるも、文字通り
身を粉にして愛するというのも悪くないと思いながら。
「……ひかる起きて」
「んぅ、?」
ひかるは仰向けに寝転んだまま、貼りついた上下の瞼を
剥がすように指でこすっている。
午前3時のひかるは甘い。
「……できたよ。」
俺ははやる気持ちを抑え、ホッチキスで留めただけの
脚本を目の前に差し出した。
走り書きした表紙のタイトルは、(仮)。
「起こして悪い。でも、ひかるに早く見せた、」
「顔洗ってくるっ!!」
バビュンッ、と、漫画みたいな効果音が似合う走りっ
ぷりに、自然と笑みがこぼれた。
脚本を抱いて、目を閉じると、スポットライトの下で
カーテンコール真っ最中のひかるが、俺の名前を呼ぶ。
*.+゚
「この主人公誰かに似てない?……やぶかな?」
「どこがだよ」
どう考えてもお前だろ、って、言いかけて飲み込んだ。
ひかるは愛おしい人を見つめるように、まだ味気ない
表紙を眺めている。
「……おれ実はね、」
「ん?」
「先週誕生日だったの」
「っえっ!?」
先週。ひかるは練習に明け暮れ、俺は本のことで頭が
いっぱいで、曜日の感覚すら見失っていた毎日だった。
言われてみれば、冬生まれが似合う。
「言ってくれたら、ちゃんと祝ったのに…」
「んーん、いーのっ」
と、ひかるは涙ぐんだ。
俺の肩にもたれ、上目遣いで、春の夜風みたいな声で言う。
「おれ、こんなに嬉しいプレゼントもらったことない。
……やぶ、ありがとう」
ジンときた。目頭が熱い。ひかるに教えられたことを
またひとつ数える。
俺はこの歳にしてまだ、美味い酒に酔うように、この
人生に酔えるのだ。
「お祝いに飲もっか」
「うんっ」
午前3時のワインは甘い。
安物の赤ワインをマグカップに注いで、幕開けの夜は
クラクラ更けていく。
*.+゚
「とめちゃん、バミリの位置確認して〜」
「衣装合わせが先っ!!」
お祭り騒ぎな劇団員の中にいると、ひかるはおっとり
されるがままで、それが楽しいとひかるはよく笑った。
「それじゃあ、よいお年を〜っ!」
年越しはひかるとふたりっきりで、紅白を見たりして、
正月は芸能の神様が祀られている神社に初詣に行った。
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時