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…
大きな飴玉でも丸飲みするみたいに、うんと苦しそうに
ひかるは頷いてくれた。
せめても、と肩を抱いて、廊下の長椅子まで連れて行く。
腰をおろしたひかるの横顔には、拭いきれない影がへば
りついている。
「大丈夫だから」
栗色の頭にぽん、と手を置いて、どうか伝われと思った。
この世界中のどこを探しても、ひかるの代わりはいない。
「ここで練習してるねっ…」
ひかるは握り締めていた台本を開き、下手くそな笑顔を
貼りつけて言った。ひかるを置いて稽古場に戻るドアは
嘘みたいに重い。
「今さら戻りたいっってどういうつもり?
お前が急にいなくなって俺らがどんだけ困ったか
わかってんの?」
涼介は真っすぐ俺を見据えて、立ち尽くすだけだった。
「気持ち切り替えて、やっと前見て歩きだしたんだよ。
ろくに理由も言わずに辞めたくせに、かき回すなッ!」
廊下にも聞こえるように、わざと大きな声で言い捨てた。
俺にとって主演俳優は船なのだ。
いつだって1隻の船を信じて、仲間と乗るしか道はない。
気まぐれだけど、がんばり屋な船に__。
「ごめんなさい、、でもおれ……」
「でもじゃないから」
ドアをぴったり、と閉め切ってしまったほうが楽なのだ。
ほんの少しの隙間から、楽しかった思い出や青春時代の
懐かしい空気が入ってこないように。
辞めた理由も聞かないで、帰ってもらおうと思っていた。
「涼介、悪いけど今日は帰ってくれ、」
「おれ大学の時からずっと、、
薮ちゃんのこと好きだったの…っ!!」
頭の奥で何かが割れた。脆いガラス細工みたいな何がだ。
雑魚寝で合宿したり、銭湯ではしゃいだり、男の青春に
酔っていたはずの演劇サークル時代。
無骨で、ウラオモテがなくて、だけど、繊細な男の友情。
「一緒にいられるだけでいいって思ってたけど…っ
やっぱり苦しくて、、それで…っ」
俺のせいかよっ!?
俺男だぞって慌てようにも、男と付き合っている身分で
それも言えなくて頭を抱えた。
冷静な俺とか友達の証とか得意のロジックがミキサーに
かけられ、1つずつ取り出すことができなくなっていく。
でも、涼介はそんな俺にはお構いなしで、ふつふつ、と
熱をあげているらしかった。
「あの、ちょっと……涼介……」
意を決して抱き着いてきた涼介は胸にすっぽり収まって
俺は満員電車のサラリーマンよろしく、両手を頭の上に
バンザイ、と浮かせた。
俺は触ってない、俺は触ってないと、頭の中で繰り返し
ながら。
いたずらに、時間だけが過ぎた。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時