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…
ふっくら、とあたたかい笑顔で、ひかるは俺を見つめた。
告白されるかもって身構えていたのはここだけの秘密で
そしたら何て答えようと思っていたかは、もっと秘密だ。
「おれ、芝居が好きだから」
年のせいかな。目頭が熱くなった。
ひかるの笑顔が眩しくて、あまり長く見ていられなくて
逸らした視線が、今度はひかるの右手に縫いつけられる。
アスファルトの熱に焦げそうな左手をたっぷりソワソワ
させて、ようやく数センチ浮かせたとき、突然ひかるが
立ち上がった。
呆気にとられる俺を気にも留めず、テトラポッドに登り、
へそに手を当て腹式呼吸__。
「あのでっかい紅茶の樽に忍びこんでさっ、
海の向こうに行くんだよっ!」
何やってんだよ、って言いながら、勝手に顔がほころぶ。
ひかるが芝居を愛してくれた。もう俺達の船は出たのだ。
「俺も海の向こうに行けるのか?」
「もちろんっ!」
「連れてってくれ頼む!」
どこに向かうかは、これから決めればいい。
「海の向こうに行きたきゃ………帰って練習だっ!!」
俺は海べりに座ったまま、拍手をした。
照れたひかるが、「やめてよ」と言いながら登ってくる。
壁のうえまで抱えあげてやろうと両手を伸ばしたけれど、
ひかるは見えていないみたいに、自分の力で壁を登った。
行き場を失くした手はポケットに仕舞った。
…
熱のこもった練習と休憩を繰り返し、秋が深まるにつれ
ひかるの芝居も円熟していった。
ひかるの態度が秋風のようによそよそしくなったことを
のぞけば、俺たちは順風満帆だ。
「やぶ、おやすみっ」
「……おやすみ」
海に行った日以来、ひかるは給料替わりのキスを求めて
こなくなった。
「やぶ、おやすみっ」
「……はいよ、」
当たり前にあったものがなくなった寂しさか、ぽっかり
空いた穴の形を夜な夜な確かめては、埋められずにいた。
「やぶ、おやすみっ」
「……ん、、」
劇団員の騒がしさが無性に恋しくなって、金もないのに
自分から誘った。
サーカスみたいなどんちゃん騒ぎで酔いたい気分だった。
「今日劇団の奴らと飲み会だから、早めに切り上げるな」
スイートポテト休憩中だったひかるは、口の中の残りを
流し込むように、熱いお茶の入ったマグカップを傾けた。
「っ、おれ自主練しててもいい?」
「いいけど…」
「帰ったらチェックしてくれる?」
「まぁ…いいけど、」
遅くなるから寝ててもいいぞ、と言い残し、部屋を出た。
ひかるの頑張りに応えられない、自分がもどかしかった。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時