ねぇ、だれにも知られないで ＜yb×hk＞

＊ ページ47

…



「…荷物運ぶだけでいいって言ってたよね？」



ヤオトメの部屋にはお行儀よく
運ばれるのを待つだけのダンボールが並んでいるはずだった。



「…3時には引っ越し業者が来ちゃうから……
その辺にあるもの片っ端からダンボールに入れて
ガムテープで閉じてってくれない？」



「…あと1時間しかないじゃん……」



足元にはフリーマーケットのそれのように
ごちゃごちゃとした小物や本が乱雑に置かれていて
踏みつけないよう爪先立ちで合間を縫って歩く。



「……忍者みたいだね」



ベッドの上に座って作業をするヤオトメは
形から入ろうとしたのか、頭にタオルを巻いている。



「……あんたは、大工さんみたいだよ」



ヤオトメの納得いかなそうな顔をよそに
大きい物から順にダンボールに入れていく。


1つ1つ持ち物チェックしてからかってやりたいけど
今はとにかく時間がない。
私はパズルを解くような少しわくわくした気持ちで
きっちり隙間を埋めるように詰めていった。









…中途半端な隙間ができてしまった。

…5cmくらいの物ないかな、………………ん？



「………化け猫！」



ベッドの上にいたヤオトメがびくり、と震えて
窓の外をキョロキョロと探った。


「…いや、本物の猫じゃないから！
…なんとかファンタジーの化け猫だよこれ！懐かしい！」


中学の時、薮の後を追って始めたのに
ヤオトメのほうがハマってしまったゲームのキーホルダー。
結局、パート2が発売されたとき
それを買ったのはヤオトメだけだった。



名前なんだっけ………



「…あ！ごんごろにゃーだ！」


「…ちがう、ルシファーだよ」



ヤオトメはたいそうトゲのある言い方をする。
それは、名前を間違えたことへの不満ではなく
”そんなことより早く詰めて”ということだろう。



…思い出話くらいしたっていいじゃないか。



しぶしぶその紫の化け猫を
空いた隙間にぴったりと埋め込んだ。








「ヤオトメ隊長、最後の一箱がどうしても閉まりません…！」



もう残り一箱というところまできて
フタが浮き上がってガムテープがどうやっても貼れない。



「…その1番上の大きいの何？」



ダンボールを玄関に運ぶ作業で汗だくのヤオトメが
頭に巻いていたタオルで顔を拭く。



私はダンボールのフタを押し上げている銀色のそれを
ヤオトメに見えるように突き出した。
ちゃんと、向きも、正しく。




「…あー、…それ、……」



…

＊→←18歳の - 引っ越し騒動 -

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す