ねぇ、だれにも知られないで ＜yb×hk＞

＊ ページ43

…




ー そして、ようやく冒頭のシーンだ。




ハタチの誕生日は何より特別だというのに、
人の家のリビングで1人ぽつんと突っ立って
素敵すぎるバースデーケーキは食べかけ、
ビールは偽物、友達には濡れ衣を着せられ、



秘密は秘密ですらなかった。



…これ以上、可笑しな誕生日が他にあるもんか。



カチャ、と控えめな音がしてヤオトメが現れ
縦横無尽に折れ目が入ったリストを私の顔の前に突き出した。


空いたスペースに新しい項目が書き足され
何重にも波線が引かれている。






”やぶを惑わすようなこと”






私は呆れてため息を吐いた。



「…私がそんなこと言うわけない」



ヤオトメはだらんと腕を下げて
本当に苦虫を噛み潰したような顔をした。
それから空いているほうの手をグーにして
ぽす、ぽす、と私の肩を小突いた。



「…それは、わかってるけどさ……」



わかってる、と言いながら
また、ぽす、ぽす、ぽす、と叩くのだ。




”大学の女の子と仲良くされるのほんとは嫌だってこと”




ヤオトメは、”私は”そんなこと言わないとわかっている。
だけどこのリストを、日本中の、もしくは薮の大学の女の子に
1人残らず配って歩くわけにはいかないのだ。



「…よその女の子は言うかもね？」



「…なんで、そんないじわる言うの……」



ヤオトメは薮にひた隠しにしている嫉妬心を
私に”猫パンチ”としてぶつけてくれる。


こんなわがままで弱った姿を薮は見たことがない。
淹れたての熱い紅茶を美味しそうに男らしく飲む姿だって
薮はこの先ずっと見られないかもしれない。




ー その姿こそが、”私達”の秘密なんじゃないか？




…今度、ヤオトメを猫カフェにでも連れて行こうかな。


私は、口元が緩むのを止められなかった。
性格の悪さなら、薮にだって負けないから。




「…女の子はみんな意地悪だからだよ」




私は昔1度そうしたように、ヤオトメの柔らかい髪を撫でた。

すっかりとしょげかえったヤオトメの肩の向こうで、
わざとらしくあくびをする薮の目を、確かに見据えながら。




あ、と思った瞬間、私の手がふわっ、と払いのけられた。





「…俺のひかるに触んな」





薮がヤオトメの頭をぐわっ、と自分の胸に抱え込み
自分のものだと主張する。




「……おれの、ひかる？」




されるがまま薮の腕の中でぎゅっ、と縮こまるヤオトメが
耳の奥がくすぐったくなるほど小さな声でつぶやいた。



…

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す