ねぇ、だれにも知られないで ＜yb×hk＞

＊ ページ42

…



薮はばつが悪そうに目線を落とした。
イライラが足に伝わり、貧乏ゆすりをしている。



「…もしかして私にヤキモチ、」

「でも俺のほうがひかるのこと知ってっから」



また小さなトゲが目の下辺りにぷす、と刺さって
痛みで涙が出そうになる。
悔しいんじゃない。痛いだけ。



「それ、ひかるが作ったんでしょ？
それで俺には言わないでって言われたんでしょ？」



私はごくん、と息を呑んだ。

それほどに、薮のニヒルな笑顔は完璧だった。
私に、もう何を言っても無駄だと思わせた。


薮にはぜんぶお見通しなのだ。
秘密だと思っていたのは”私達”だけで。






「…俺はね？」






薮の甘ったるい声だった。



「ひかるが俺に好かれたいって
健気にいろいろ努力したり我慢してくれてんのも含めて
可愛いなって思ってんの。」



薮は、”あーもう、ここまで言うつもりなかったのに”と
頭を掻きながら不機嫌な声を吐き捨てて
私の目の前に立ち、腕を組み、顔を覗き込んでくる。



「…それ、見なかったことにしてやるから、
お前も帰るまでひかるの指示通りにやり通せよ？いいな？」



薮の勝ち誇った目がやけに近い。
まるで私の顔がぼんやり透けていて、
そうでもしないとよく見えない、というように。



「…返事は？」









「何してんの？」








音もなく部屋に入ってきていたヤオトメが
レジ袋片手に立ち尽くしている。




「なんか、目にゴミが入ったとか言うから見てたんだけど
気のせいだったみたい、…ね？」

「…あ、はい……」



薮はわざとらしく伸びてあくびをしながら
”トイレ〜”と言い、私を置き去りにした。



ヤオトメが、がしがしと近づいてきて
テーブルにレジ袋を投げやった。
袋から転げて出たノンアルコールビール。
ヤオトメはどこまでも生真面目だ。



「…やぶとなに話してたの？」



「…別にこれといって何も……」



「顔、赤いけど？」



今にも、はぁ？と不機嫌な声を出しそうなヤオトメが
眉間にシワを寄せて睨みつけてくる。



「…メモ、貸して」


「メモってなんの…」


「”言っちゃいけないことリスト”持ってきてるでしょ？
…はやく出してっ」


広げた左手をバンバン振って要求してくるヤオトメに
私は慌ててポケットの奥からリストを引きずり出した。
焦ってるときに限って爪がカリカリ出口に引っかかる。



ヤオトメは”なにこれちっちゃっ”とブツブツ言いながら
リストを持って寝室に消えた。



…

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