ねぇ、だれにも知られないで ＜yb×hk＞

18歳の - スミレの花の砂糖漬け - ページ33

…



私はデパ地下が好きだ。でも疲れもする。

キラキラとしたショーケースに並んでいるのは
宝石なんかよりもずっとずっと魅力的なものばかり。

苺、オレンジ、メロン、生クリーム、プリン、チョコレート

ぐるぐる、ぐるぐる歩き回って
お菓子ひとつ選ぶのに、半日もかけてしまった。




”やぶには内緒で”、と誘われたお茶会は
ヤオトメらしいこざっぱりとした部屋で
きっかり3時から始まった。


ヤオトメに会うのは、薮に横取りされたあの卒業式以来だ。


”飲み物はこっちで用意する”とやけにキッパリ言われたので
あきらめてお土産はお菓子にした。
製菓学校に通うヤオトメにお菓子を選ぶなんてハラハラする。




「…じゃあ、これってヤオトメが1から作ったの？」




テーブルに向かい合って座った私達は
するするとお喋りを始めた。
ヤオトメが銀の茶こしを使って、
白いマグカップにお手製のハーブティーを並々と注ぐ。

素人の私から見れば、見た目は普通の紅茶と変わらない。
ただ、ほわっ、と温かい香りが2人の間に漂って
くつろいだ雰囲気になったことだけはわかった。



「学校に詳しい先生がいてね、作り方教えてもらったんだ」



「へぇー、すごいお洒落だぁー」



いただきます、と熱々の液体を少しだけ口に含むと
それはちょうど今みたいな、
春と夏の間の花壇みたいな味がした。



「こんな複雑な味のお茶初めて飲んだよ…。
色んな花のいい匂いがするし、なんか贅沢な気分になるね。
…薮にこんな繊細な味がわかるのかねぇ？」



「…やぶはコーヒー派だから」



ヤオトメは鼻から小さなため息を漏らして
わざとらしく肩を落として眉を下げた。



カップの中では、
茶こしの網目から逃げ出した細っこい花びらが
ぷか、ぷか、ぷかと浮いてくる。



「ヤオトメ、この白い花はなにー？」


「それはカモミールだよ」


「じゃあ、この赤いのは？」


「それはローズヒップ」


「じゃあこの、黄色いのは？」



ヤオトメがお澄ましした顔で窓際を指差した。


透明な花瓶に生けられた小さなひまわり達が
カーテンの隙間から差し込む日光を浴びている。


それを懐かしく思いながら正面に向き直ると
ヤオトメが人差し指と親指をこすり合わせて
”ちょっとだけ入れた”、とジェスチャーをした。



「ひまわり、毎月継ぎ足してるんだよ」



「…継ぎ足すって？」



よく見ると何本か元気がないみたいだ。





「…やぶが、記念日に1本ずつくれるから」




…

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