ねぇ、だれにも知られないで ＜yb×hk＞

15歳の - 神様の試験 - ページ24

…



”神様の試験”



それは人間だれしもに必ず1度は訪れるものであるかもしれないしそうじゃないかもしれない、と私は言った。




…




放課後の理科室は無法地帯だ。
少なからず、私達の中学では。



ヤオトメがテーブルに置いたビーカーに人差し指を突っ込んで
ガランガラン、ガランガラン回している。
片肘をついて、この世の不満を全部詰め込んだみたいな顔をして。もうかれこれ10分はそうやっている。
いつまでやる気だ、と思う。



「…本当に知らなかったと？」



ヤオトメがガランと、じゃなくて、こくんとうなずいた。



「…とりあえず、うるさいからそれやめて」



実験のときしか使わない、8人掛けの無駄に大きなテーブル。

向かい合って座るヤオトメが無愛想に
”あちらのお客様からです”と、隣のテーブルを指差し
ビーカーを私の方に滑らせた ー つもりが
それは真ん中辺りで失速し止まった。

あのヤオトメが冗談を言うなんて危険な状態だ、と思う。



「…あちらのお客様ってだれよ？」



「…さぁ？やぶの彼女じゃない？」






ー 薮の彼女

その存在が発覚したのは昨日のことであり
付き合いだしたのは10ヶ月も前のことだった。
ヤオトメがバレンタインにチョコを渡した日から数えて
半年以上も前のことだ。



「…でもまさか、水兵さんが相手なんてね」



水兵さんは隣町の女子中の呼び名だ。
白のセーラー服を着ているからと、だいぶ昔にだれかが名付けたらしい。


その水兵さんと薮との出会いはサッカーの試合だった。
うちのサッカー部に兄をもつ水兵さんが
練習試合の応援に来たとき、キャプテンの薮に一目惚れ。
そこからお兄さんを通してトントンことが進んだらしい。

ちなみに情報源はそのお兄さん。
薮とお兄さんと私は3年1組で、ヤオトメだけ3組だ。


「…他校だし、薮も忙しいし、そんなに長く続かないって」


「…でもやぶは、水兵さんがいいんでしょ？」


”女の子がいいんでしょ”、と言いたげなヤオトメが
ビーカーを取ろうと手を伸ばしたけど届かなかった。
私は持っていた傘でビーカーをくっ、と押し
それはヤオトメの空っぽの左手に収まった。




やれることはあるはずだ、と思う。
少なからず、”私達”には。




帰るとき、雨は降っていなかった。
ヤオトメが、”今日は晴れ予報だったから当たり前だよ”と言い
私は、”でも傘は役に立った”と言った。




ヤオトメは、”前向きだね”と言って
真顔で夕焼け空を仰いだ。



…

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