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『今日カレー作るけど食いにくる？』
忠義さんからのメールにはただそれだけが書いてあった。
それだけだったけど、そのメールが届くすこし前まで忠義さんのことや、映画のことや、あの日の豚汁のことを思い出したりしてたからまるでくじに当たったみたいな気持ちになった。驚きと、そしてたしかな喜びと。
「雨やばいな、今日。」
訪れるのは三度目の忠義さんの家。特にお出迎えとかはなかった。
インターホンのボタンを押すと「鍵、開いてんで」ってスピーカーを通して言われたから、すこし緊張しながら玄関のドアを開けて靴を脱ぎ、遠慮がちに家の中に入った。カレーの匂いがした。
忠義さんはテレビの前のソファに気だるそうに座っていて、わたしのほうをちらりと見ると窓の方も一瞥し、それからテレビに視線を戻してそう言った。
「…傘、外の壁のところ、立てかけちゃったんですけど、大丈夫ですか？」
「ああ、おん。」
ソファの肘おきに頬杖をつく忠義さんは、まっすぐテレビを見ながら頷く。
わたしはブレザーのポケットから出したハンカチで肩の水滴を拭う。ブレザーやプリーツスカートは雨に濡れると生臭いような匂いになるのが嫌だ。
部屋の中は雨の音とカレーの匂いと、あとテレビから鳴る衝撃音とBGMで埋まっていた。テレビから鳴る音は軽快で豪快で、目が離せないシーンなのかもしれない。
わたしは、数秒手持ち無沙汰に立ち尽くした後、恐る恐るソファのほうに近づいて、テレビ画面を覗いた。
「知ってる？これ。」
忠義さんがわたしの方を見上げたから、わたしは頷く。
ちゃんと観たことはないけど、さすがに知ってる。画面の中には赤と青のマスクの男が縦横無尽に飛び回っていた。スパイダーマン、だ。
「さすがに知っとるか。」
忠義さんは口角を上げて、それから、「座る？」と横にずれてわたしが座れるようにソファを空けてくれた。
真っ暗だった窓の外が一瞬白く光る。
わたしは忠義さんのとなりに腰を下ろしながら、その雷の光を見た。
ごろごろと空が唸る恐ろしい音がして、背中をすこし丸めて画面の中のスパイダーマンに集中する。
雷は好きじゃない。雷じゃなくたって、簡単に誰かの何かを奪っていってしまうようなものはどれも怖い。
だけどそんな怯えよりも、夜の雨や雷の音を自分以外の誰かがいる部屋で聞いていることが不思議だった。
そしていつもより、ずっと安全な気がした。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (
レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません（涙）そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います！ありがとうございます！ (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです！応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…！そしてあたたかいコメントありがとうございます（涙）すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです！ (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年1月30日 0時
