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「会うてみたい?おじいさんに。」
そう言ってわたしをじっと見た忠義さんの表情は、ふたたび大人の顔に戻っていた。
わたしは、困惑する。
そんなこと訊かれたって、すぐに答えが出ない。
顔も見たことない、だけど確かに血が繋がっていて、わたしのおじいさんであり、おばあちゃんの昔の旦那さんであり、そしてママのお父さん(もうママはそうは思っていないんだろうけど)というそのひとに、会ってみたくないと言ったら嘘になる。
だけど、仮に会ってみたいと思ったって、ママがあんな風に怒ったり悲しんだりするようなことはしたくない。
わたしの家族はママだけだから。
そんなことを考えながら、答えが見つからずに眉をひそめてゆっくり首を右に傾けると、
「まあ、そうよな。わからへんか。」
忠義さんは頬杖をついたまま、ゆるく頷いた。
きちんと口に出せずに首だけ傾げるなんて、我ながらちいさな子どもみたいで嫌だった。
「すみません。」
と肩を縮こませるわたしに、
「なんで謝るん。」
忠義さんは困ったように笑って、その顔が淡くやさしくてわたしはすこしほっとする。
「ママにはこの話、秘密にしといて。俺に会ったってことも。」
「はい。」
わたしはゆっくり、もう一度カップに口をつける。
ミルクティーはまだ熱いことには熱いけれど、びっくりしてしまうような熱さではなくて、やっと味わえるくらいの量を口の中に含ませることができた。
甘くておいしい。
でも、ママがたまに作ってくれるホットミルクが飲みたくなった。
別になんてことはなくて、鍋に牛乳を沸かしてそこに市販のはちみつを溶かすだけなんだけど、でもママがいつも適当に溶かすはちみつの量が絶妙で、それがすばらしくおいしい。
冷めてきて飲みやすく、調子付いてもうひと口ふた口とカップから口を話さずにミルクティーを飲んで、
それからふとママから何か連絡が来ていないか、ブレザーのポケットから携帯を出して膝の上でそっと開いてみる。
着信もメールも0件だった。
時刻はもうすぐ、6時を過ぎようとしていて、外は真っ暗。あと一時間半が経てば、忠義さんは帰ってしまう。
なんだか急に、不安になってくる。
手のひらの細長い、二つ折りの薄い携帯は薄ピンクにつやつや光ってて、だけどとてもおとなしくしていた。
ママは今頃、ソノダさんとのデートを楽しんでいるんだろうか。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時