・ ページ9
・
ひどく目が渇いてさっきから何回もまばたきを繰り返していた。
出かけるすこし前にママによってカールが施されてマスカラが塗られたまつ毛がまばたきをするたびに重たく感じる。
ママが用意したあまり好みではないワンピースに身を包んだわたしは、親しみのない味の肉料理を恐る恐る口に入れた。
落ち着かない。
ソノダさんは今日会ってからずっと、なんだかうれしそうだった。
わたしとママを交互に見ては「やっぱり、こうして見ると綾子さんとよく似ているね。」と目を細める。それも何度も。
そのたびにわたしはうっすらと笑みのようなものを浮かべながらも、なんて答えることが正解なのかわからなくなる。
ママを横目で見ると洋風の卵焼きのような、パイのようなものにフォークを刺しながらお店のお客さんの話をソノダさんにしていた。
やっぱり、きちんとメイクをして着飾っているママはとても綺麗だ。
ノースリーブから出た白くて華奢な腕。つやつやの紅い爪。派手なメイクも似合ってる。
周りのひとからは、わたしたちは父親と母親とひとり娘の三人家族に見えていたりするんだろうか。
いや、どちらかと言えば、わたしだけ場違いで浮いて見えているかもしれない。
「高校卒業したら大学行かないで働くんだって？」
ぼんやりとしながら肉料理のとなりによそったスパゲティにフォークをつけようとしたとき、ソノダさんに話しかけられた。
わたしが手を止めて、歯切れの悪い返事で頷くのを待たずに頬杖をつきながらわたしを見ているソノダさんは続ける。
「ママのために働く道を選ぶなんてえらいよなあ。」
わたしは束の間返答に困って助けを求めるようにママを見ると、
「ほんと、私に似てなくてすごくいいコなの。」
と愛らしい眼でわたしを見て少女のように無邪気に笑った。
ママは恋愛において自分をかわいく、いじらしく見せるのが上手い。ずるいほどに。
それは今まで幼いながらに感じていたことで、今更のことでもない。慣れたものだ。
慣れたものだったけれど。
ママに合わせて咄嗟に笑おうと思っても、上手に口角を上げることができなかった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 736人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…（涙）気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…！ (2022年2月6日 14時) (
レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…！ (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します！つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……！続き、楽しみにしてます。これからも応援してます！ (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年12月5日 23時
