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イヤフォンの向こうからひそかにため息が聞こえてきたような気がして、横を見るとタツくんと目が合った。
今日は来たときから、タツくんはパソコンに向かっていた。論文を書かないといけないらしい。
机の上に積まれた分厚い本に、なにが書かれているかは私には題名からでは見当がつかない。もちろん、タツくんがしかめ面でパソコンに打ち込んでいる内容も。
「帰りたくなったら言って。送ってくから。」
タツくんは目が合った瞬間と同じ、どこかぼんやりとした表情のままそう言うと、片手で結いていた髪の毛をほどく。
ちょうどタツくんがいるダイニングテーブルの真上にライトがあって、その光が当たってタツくんの髪の毛はより茶色く見えた。
「ひとりで帰れるから大丈夫だよ。」
わたしはイヤフォンを外して、なるべく、平坦な口調で言う。
ひとりで帰れるけれど、ひとりで帰りたいわけでもなかった。でも、タツくんの邪魔をしたくはない。おかしな矛盾。
「どうせ煙草買い行かなあかんし。」
両手で長い前髪を掻き上げて、そのまま、いつものハーフアップに髪の毛をまとめながらタツくんは言った。
タツくんが髪の毛を結いているのを見ると、最近のわたしはなぜか緊張する。
特に、髪を結くときの骨張ったおおきな手を見ると。
タツくんの顔はすごくちいさいし、首がほそくて長いから、見ようによっては女性っぽくも見えるのに、そのおおきな手や横から見るでっぱった喉は男のひとのものだった。
一度ほどかれた髪の毛がおおきな手でざっくりとまとめられて、ふたたびひとつに結わかれる。
「ソノダさんとの昼飯、いつやったっけ？」
グラスを持って立ち上がったタツくんは冷蔵庫の、氷が入ってる引き出しを開ける。ガシャ、と中の氷が動く音が聞こえた。
それから、こっちを向いて「Aちゃんもなんか飲む？」と訊いてくれる。
「来週の日曜日。」
喉がかわいているような気がするけど、大丈夫、とわたしは首を横に振った。この問題を解き終わったら、帰らなければいけない。
ふと手元を見ると、CDプレイヤーの中の銀色のCDだけが回り続けていて、わたしは正方形の記号で記された停止ボタンを押した。
錦戸くんがつい昨日くれた、2枚目のCD。昨日からずっと聴いている。
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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…（涙）気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…！ (2022年2月6日 14時) (
レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…！ (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します！つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……！続き、楽しみにしてます。これからも応援してます！ (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年12月5日 23時
