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向かい側で素麺をすするAちゃんのまつ毛が動くのを、素麺を箸にひっかけながら見ていた。
白くて細い素麺の束を大胆に箸で持ち上げると素麺と一緒にボウルに入れた氷が音を立てた。
「昼飯、あんま食われへんかった？」
腹が減っていたような様子で素麺をするすると食べていくAちゃんに俺は尋ねる。
例の昼食会は母親の再婚の報告などは特になくて、ただ三人で食事をして母親の恋人に「母親に似ている」と何度も言われるだけの退屈で妙な会だったらしい。
「食べたんだけど、なんかあんまり食べた気しなくって。素麺のほうがおいしい。」
そう言って口角を上げる顔はいつものように年相応に無邪気で、俺はよくわからなくなる。
Aちゃんがこの部屋に入ってきたとき、それが誰なのかわかるのに数秒かかった。
上向きに長く上げられたまつ毛といつもとまるで違う装い。
それが奇妙だと思ったわけではない。
長いまつげは小ぶりな顔に馴染んでいたしワンピースも似合っていた。
見慣れない、ともまた違った。そんな軽いことではなくて、もっと重大で、ともすれば不安さえ覚えるような感覚。
たとえば、今まで自分が慣れ親しんで接していたなにかが実は全然違うものだったような。
「ごめん。タツくんのお昼ご飯なのに。」
はっとしたように眉尻を下げて俺を見るAちゃんをよそに、俺は頭の中で高校生を形容する言葉をいくつも思い浮かべてみる。
制服を着た、歳がいくつも下の、幼い、保護者が必要な、無知で無垢な。
「まだ湯がけばあるから気にせんでええよ。」
そう言って素麺をすする。麺は氷でよく冷えていて、つゆの味がすこし濃い。
だけど――つゆに浮かんだ次の素麺を箸にひっかけながら、思う。
だけど思えば、今の自分だって高校生の頃の自分とどれほど変わったかわからない。
身長も体格もそう変わらず、精神的には正直なにも変わっていない。せいぜい、すこし外見が垢抜けたくらいだろうか。
下手したらAちゃんは高校生の頃の俺や周りの同級生なんかより落ち着いていて物分かりもいい。無垢かもしれないけど、幼稚だと思ったことはなかった。
俺は彼女を高校生の子どもと位置づけることになにか大きな意味でも持っていたんやろうか。
素麺が垂れ下がった箸を口元に近づけると、向かいでAちゃんは素麺の入ったボウルに手を伸ばしていた。
伸びた腕は白くて細かった。
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蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…（涙）気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…！ (2022年2月6日 14時) (
レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…！ (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します！つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……！続き、楽しみにしてます。これからも応援してます！ (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります！ (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年12月5日 23時
