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となりに座っていたタツくんがゆっくりと立ち上がる気配で我にかえると、映画はもう、エンドロールになっていた。
「なんか観たいのあったら、好きなの観ていいで。」
タツくんはわたしの前にテレビのリモコンを置いて、髪の毛を結わきながらキッチンに向かったから、
「夜ご飯の準備する?」
ソファに座ったままタツくんのほうを見る。
「そろそろ。」
「わたしもなんかできる?」
そう尋ねたわたしにタツくんはすこし驚いた顔をしたけど、「手伝ってくれるん?」ってすぐに柔和に口角をあげた。
――いい曲だね。
シンプルな伴奏――楽器とか、よくわからないけど多分ギターの音だと思う――と、泣きそうなしゃがれた男のひとの声。英語は聞き取るのが難しくて、どういう曲なのかいまいちわからなかったけど。
でも単純に聴き心地が良くて好い曲だと思ったから、そう言うと錦戸くんは「ホンマに?」って、嬉しそうな顔をした。
錦戸くんはそういう、古かったり流行りじゃない曲をお兄さんたちから教えてもらうらしい。お兄さんたちがギターを持っていて、最近こっそり借りて練習してるということも言っていた。
そんな錦戸くんが、大人だと思った。
わたしは知らないことばっかりだし、できないことばっかりだ。
「千切り、やったことある?」
タツくんはわたしのとなりでお米を研いでる。しゃかしゃかとお米と水のやさしい音がしていた。
わたしはううん、と首を横に振って、洗ったばかりのつめたいキャベツをまな板の上で重ねた。
「ちょっといびつになっちゃうかも。」
「ええよ別に、どんなんでも。指だけ切らんようにしい。」
「うん。」
包丁を持ってはじっこからざくり、とキャベツを切る。歯切れよい感触と、だけど、まな板にばらばらと散らばる千切りとも思えない幅のキャベツ。
「包丁、こうすると切りやすいで。」
貸してみ、とタツくんはお米をザルにあげた後、タオルで手を拭いてわたしの手から包丁を受け取る。タツくんの指はつめたくてちょっと濡れてた。
「上から押し付けるだけやなくて、気持ち引くねん。」
タツくんのお荷物になるのは嫌だって思った。
それはタツくんに出会ったときからあったけど、最近になって怖いくらい感じる気持ちだった。
ざくざくとリズムよく刻まれていくキャベツと筋張ったおおきな手をぼーっと見ながら、なぜだかわたしの胸はすこし苦しくなっていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - みぃちゃん。さん» みぃちゃん。様、お久しぶりです!いつもコメント下さりありがとうございます…!1,2通しても登場人物たちの気持ちの変化があまりにも微動すぎて申し訳ない気持ちになりますが、3はもうすこし動かせると思うのでお待ちいただけるとありがたいです^^ (2019年12月4日 15時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - なのはなさいたさん» なのはなさいた様、初めまして。更新頻度もすくなく、物語の展開もおそい退屈な話ですが、読んでいただけてうれしいです…。ありがとうございます(涙)引き続き楽しんでいただけるようにがんばりますね!! (2019年12月4日 15時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃちゃん。(プロフ) - お久しぶりです!今回もワクワクしながら読ませて頂きました^ ^ いったい、みんなの気持ちがどんな風に動いていくのかなぁ…と思っています〜また読み返しながらゆっくり更新待ってます^ ^無理せず頑張って下さい! (2019年12月3日 0時) (レス) id: 45454de63e (このIDを非表示/違反報告)
なのはなさいた(プロフ) - 初コメです!いつも楽しみに読ませてもらってます!これからも応援しております(o^^o)更新ゆっくりでもいいのでお待ちしてます! (2019年11月30日 13時) (レス) id: 9a9c48371e (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - さらささん» さらさ様、あたたかいコメントありがとうございます。えっ3回も飽きずに読んでくださっているのですか…(涙)とてもうれしいです…これからも頑張って書いていこうと思えます…こちらこそ、ありがとうございます! (2019年9月17日 8時) (レス) id: 1f320f9766 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年5月8日 23時