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のんびり外を眺めている場合じゃない!
回診の後はカルテ記入、その後ミーティングして重症クランケをもう1度見回り…そうだ、最後に北山先生と503号室の今日入った患者さんを訪ねて…今日はそこで上がり。
早めに出れば間に合うし、上手く行けば2本くらいは?

観たい映画があるんだよね…んふ。たまには映画館で映画観る余裕も必要でしょ?釣りは行けないけどさ、映画なら夜もやってるし。
赴任してからの3ヶ月というもの、病院と敷地の寮との往復で食料買い出し以外は全く外に出てないの。
1本はアニメだから、奥邑さんと話す話題も……。


…って、なんでそんなに奥邑さんと話したいんだ、俺?
アレか、あの柔和な笑顔か??話してると落ち着くっていうか、ウマが合うというか…。
いやいやいや、医者のほうが落ち着かされてどうすんの!


大学病院は患者がある程度緊急性を脱して診断が付き、後は薬で治療するほどになれば、更に地域密着型の通える病院に割り振ることが求められる。
大学病院も患者で手が回らなくなる上に、地域の他の病院の仕事を奪うことになるからだ。

奥邑さんもすぐに家に帰れるだろう。そもそも心不全とはいえ入院が必要なほど強い症状が出ていない。時々胸が痛むらしいが、バイタル・血液検査ともに異常はないし。
担当である主任の診断だからあまり大きな声では言わないが、何故入院が必要だったのか不思議なくらいなのだ。

だから余計に注目していたのもあるか?…あるな。
たった5日だけど、やたらに奥邑さん見ちゃってるもんな。


でもさっきみたいな深刻な顔は初めて見た。
診察は主任がしたから、サブの担当の俺が知っているのは入院してからの奥邑さんだけ。
少なくとも入院後の奥邑さんは、いつも笑顔か照れてる顔だったから。


………さっきの奥邑さんは、冷たく感じるほど綺麗な顔だった。



この時、まだ俺は知らなかった。
その顔がもっと冷たくなる瞬間を。
冷酷に徹するほど美しくなる奥邑さんを。




『…周芳野先生、さっき窓から俺のこと見てました?俺が気付いて手を振った時にはもういなくて。』

『え?いや、あの…。』

奥邑さんにいきなりそう話し掛けられた。なんだかすぐに返事できなくて挙動不審になってしまう。

あちゃ、バレてたか。
此処の中庭は中庭と言っても屋上庭園になっているので3階にある。すぐ上の4階の休憩室から見てれば分かっちゃうよね。

『み、見てました。』
『良かったぁ。幽霊見たのかと思いました!』

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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