白い祈り (ページ50)

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『さっき藤ヶ谷が小児科はてんやわんやだっつってた。うちの患者さんに迷惑掛からないといいけど…。それでも被害者のこと考えたらやりきれねー話だなぁ。

…そうだ。奥ちゃんにはマジでサンキューじゃん。助かったよ。あ、入院費は精算後に俺が払うから…電子マネーでいい？』

奥邑さんは首を横に振る。

『公務員なんで貰えませ〜ん。』

『俺が頼んだのに？有休も使わせたし仕事も…焼肉は奢っていいの？』
『あ、僕も出します。せめて奢らせて下さい。』
『そう？鹿島っち、いつ空いてんの？みんなスケジュール出して〜。』

鹿島先生もすっかり北山先生のコミュニティに入ったらしい。
以前と比べれば顔がすっきり明るくなった。まるで憑き物が落ちたようだ。

『ん〜、ここんとこ仕事に打ち込みすぎで全然寝られてなかったから、なんやかや休めたし。…気になるなら身体で返して？』
『おま…っ！ま、まぁ１回くらいなら…。』
『赤くなんないで？フットサルの話だから。』

思わず奥邑さんの顔を見た。

身体で…？北山先生と奥邑さんって…。

なんだかぐるぐるもやもやして、目を伏せる。
同性でも構わないではないか。勿論嫌悪感はない。

でも…何だろ。この込み上げてくる哀しみは。

しばらく沈黙が続いたのに気付いて顔を上げると、３人が俺の顔を見つめている。

『《顔を読む天才》は《顔に出る天才》でもあったか。』

『分かりやすい。今の流れでそんな顔したら《嫉妬に戸惑う恋する大型犬》にしか見えませんよ？』

…《恋する》？？

奥邑さんは赤い顔でじっと俺の顔を見つめている。
その目は…まさか？

…とくんっと俺の胸が脈打った。不整脈、という訳ではなさそうだ。

『よし、決めた。入院費と今回のお礼として奥ちゃんの恋を全力でバックアップするわ。』
『じゃあ僕は周芳野先生に助力します。』

にやにやと笑みを浮かべる２人を余所に、奥邑さんは俺の顔を見つめ続けている。
どうにも居たたまれない。

『……な、なんか変なことに。』

『ん…でもあながち間違ってないかも。』

『え？』

後頭部に手を遣り恥ずかしげに微笑む奥邑さんに、また心拍数が上がった。

『……眼鏡一緒に買い行くの、いつにしよっか？』

『はい…っ！』

勢いよく二つ返事で答えてしまい、顔がかあっと熱くなる。

……ああ、彼のこの笑顔はどうやったらカルテに書き込めるのだろうか。

そんなことを考えながら、俺は携帯の予定表アプリを立ち上げた。

fin.