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『離せや!退けっ!!』
『あ、暴れないで!離れましょうってば!』

石馬さんが俺の手を振り解こうと腕をめちゃくちゃに振り回しているが知ったこっちゃない。
とにかく2人に距離を取らせることしか考えられず、俺はベンチの上に飛び乗り彼を引き摺った。


石馬さんは両目をスプレーでやられたらしい。ナイフを持っていない手で何度もぎゅっぎゅっと目を擦り、キツく閉じては開けようとしている。
俺も同じく右目が痛い。反射的に無事な目からも涙が出て前が見えにくい。
アルコールでも痛いものは痛い。流石にすぐには目が開かない。


だけど、そこへ白い影が近付いてくるのがぼんやり見えた。
何故だ。何故こっちへ来る?
こっちはわざわざ離れようとしてるのに。


『……黙ってればいいものを。』


バチバチバチッと破裂するような音とともに、石馬さんの呻き声。いきなり掴んでいた彼の身体が力を失い倒れ込むのを感じた。
戸山先生がスタンガンを石馬さんの胸に押し当てたのだ。


『…ちょ、石馬さん!!戸山先生!?』

見えないながらも慌てて石馬さんの腕を取り脈を探した。
スタンガンの電流が如何ほどのものかは全く知らないけれど、彼は心臓疾患がある。しかも軽くはない。

『石馬さん!』

ありがたいことに脈は乱れながらも途切れてはいなかった。でも早く病院の中に運んで…。


『戸山先生、これ以上は過剰防衛です!もう彼はあなたを襲えませんから病院に連絡して迎えに来させて下さい…っ。戸山先生?』

だが、影は俺にも襲い掛かってきた。
必要以上に俺へ身を寄せる戸山先生を振り仰いだ刹那、あの電流音が身体の中から響き渡る。


『……ぎ…ぃ…っ!』

痺れるというよりは、ぎゅうっと引き掴まれてそこに大量の針を刺されたような痛みに声も出ない。
目の端に入った黒いスタンガンは、はっきりと意志を持って俺の右脇腹に押し付けられていた。


『悪いが、ここに居合わせたのが不運だと諦めてくれ。』


…ということは、彼は護身用の為だけにスタンガンを用意した訳ではないのだ。
隙あらば、自分から石馬さんを…。


『くっ…う、痛ぇぇ。』

戸山先生はうずくまる俺を無理矢理立たせ、川縁へと引き摺っていく。抵抗しようとするが灼けつく痛みにまだ支配されている身体は力が入らなかった。

一級河川だけあってこの川は広くて深い。だから腰までの高さの柵が張り巡らされている。

俺の身体を柵に寄り掛からせた戸山先生が呟く。


『すまない…。』

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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