白い祈り (ページ36)

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寝ている間に更新された情報を頭に叩き込みながら、病院へと歩みを進める。

地方のメインステーションから歩いても１０分と掛からない場所にある強みは、何も患者さんにだけ都合がいい訳じゃない。
病院も医大も研究施設も職員の寮も、丸ごと交通の要所にある利便性はとんでもない成果を出すはずだ。

医科大学附属病院、結局のところその実体はあくまでも医療の向上の為の研究機関の一部だ。
未来の医師を育て、より多くの疾病疾患のデータを取り、新たな医療知識を発見し、新たな医療技術を開発し、研究する。
看護師から検査技師、事務職員に至るまで未来の為に医療サービスの向上を研鑽することが求められる。
この立地なら、更なる患者のデータ取得にも便利で、共同研究を行う業者や研究者の足の運びもいい。
それに潤正医大は私立だから国公立の医大よりは研究費用もバカにならない。

つまりは患者が多いほど研究が進むのだ。

本当は病気なんてなければそれに越したことはないけど、患者が多いほうが研究が進むなんて矛盾を感じたこともある。
それでも病がそこにあるなら研究は進めなければならない。偉大なる矛盾は病が根絶されるほどの治療技術を確立しなければ消えない。

さて、夕方になっても消えない賑わいの中、職員用玄関の前でパスナンバーを打ち込もうと顔を上げた。
目の端に動く影が映る。
病院の建物の向こう、土手の上に歩く人影が２つ。
あれは…戸山先生と黒いジャージを着た男性。誰だっけ。あの顔は確か……石馬さん？

妙な組み合わせに思わず携帯カメラを起動した。最大限にズームして何枚か撮ってメッセージアプリに流す。
その間に彼らは土手の反対側へと降りていってしまった。
俺はそれを見て、返信が来る前に駆け出した。

走りながら考える。
彼は俺の担当する患者さんだ。なのに点滴を全て外している。俺はそんな指示も許可も出していない。外出許可も取っていないだろう。
しかも散歩とはいえ昨日の今日ならばまだ息をするのも苦しいはずだ。
わざわざ抜け出して戸山先生と外で会う意味はあるのか。

土手の向こうは広い河川敷公園になっている。
ここまで長い坂を駆け上がってきた俺は、上がった息を鎮めながら公園を見下ろした。
乳酸が足取りを重くしている。

北山先生と一緒に身体鍛えようかな…チラリとそんなことが頭をよぎった瞬間、手に握っていた携帯が鳴った。

《周芳野っち！まさか追いかけてるのか？》

頭に浮かんでいた人からの電話だ。