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事実は小説よりも奇なり。まさに今夜は映画をハシゴしてる気分だ。絡み合う過去と現在。
そして今、新たな案件が表面化する。
『戸山先生は確か小児科の先生ですよね。』
『ええ…。』
鹿島先生の口が重い。
《戸山》という名もまた、彼の心を縛りつける呪文らしい。
『さっきの口調から察するに、あなたからの心象はかなり良くないようですが。』
奥邑さんの目つきが変わった。
ガゼルが肉食のヒョウへと変貌していく様子はなかなか見応えがある。ちびりちびりと間合いを詰めていく会話に手慣れた印象を受けた。
この人の仕事は書類仕事だけじゃない。やっぱり刑事なのだ。
他の警察官と言えば父さんのことを調べていた人しか知らないが、真実を追及しようとする目つきは似ている気がする。
どんな小さなことも見逃さない、そんな気迫が宿っている。
『《戸山だな?何を聞いた!》とあなたは仰った。戸山先生はあなたのことにお詳しい。少なくとも相原さんとあなたの関係を知っているんですね。そしてあなたは戸山先生を良く思っていない。』
『……あなたは確か警視庁事務職員でしたね?』
警視庁という勤め先なだけに、やはりみんな覚えているものらしい。
奥邑さんは冷めた目のままでニコリと微笑んだ。
『患者ですよ。ただの。そのほうが都合がいいでしょ?もし刑事だったらあなたは同僚への暴行で現行犯逮捕されてますもん。』
『ああ…刑事さんなら…なるほど。』
がっくりと頭を垂れた鹿島先生は、観念したように口を開く。
『戸山さんは僕の医大の時の先輩で…僕が彼女と付き合っていたことも知っていました。この病院に誘ってくれていたのも彼です。
ところが…戸山さんは僕が勤務し出すや否やこう言い出した。あることを《手伝わないか?》と。あんなに心臓の病で話題になった女優が循環器内科の医師と恋人だったと知れればさぞ大きな記事になるなどと暗に脅されました。
これまでなんとか躱してきましたが、会う度に意味あり気な顔をされるので辟易して…いっそ話に乗ってしまおうかと思っていたのです。』
『あなたがC型肝炎だったと知った上での脅しですか?』
『知らないはずですが、もし知られたらもっと強く脅してくるでしょう。』
頭を垂れた鹿島先生の声は、歯軋りが聞こえそうなほど悔しそうだ。
『《手伝う》とは?』
『……。それは部外者には言えません。』
『例えば心臓移植の希望患者に正規ではないルートを紹介すること…でしょうか。』
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時