白い祈り (ページ31)

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『相原さんがいたらきっとこう言います。
《泣いてんじゃないわよ！泣く暇あるならこんな病気治す方法をもっと捻り出したら？》って。

俺たちのお仕事って医療知識や技術をそれが必要な患者さんに届ける橋渡し役だと思うんです。
そしてその逆の橋渡しも。患者さんを直に見て医療知識や技術へと還元することは大学病院の使命でもありますもん。

俺たちは、誰かの為に祈るだけしかできないとか、誰かの為に泣くしかできない訳じゃない。
その祈りを実現させる為に動くのが僕たちのできることなんじゃないかな…。
なんて、先輩に新米が言うのも失礼でしたね。ごめんなさい。』

言いながら、なんだか泣けてきた。袖先で溜まる涙をそっと拭った。
見ると、奥邑さんはニコニコだ。

『周芳野先生、カッコイイなぁ！』

なんて言うから、顔が熱くなって余計に肩身が狭くなる。

でも、鹿島先生の涙はいつの間にか止まっていた。
まだ顔も瞳も涙で濡れてはいるけれど。

『周芳野先生…僕は医師を続けていいんでしょうか？』

『いいんです。医師でなければ相原さんの遺志を実現できないんじゃないですか？
そりゃ医師を辞めて違う方法でアプローチする手立てもありますけど、相原さんは熱心だった医師のあなたと恋に落ちたんだから、自分の思い出の中そのままのあなたが自分の願いを叶えてくれるほうが嬉しいんじゃないのかなぁ。』

そう言うと、鹿島先生は少し俯いた。

『……僕にもまだ恵理の為にできることがある。』

人は死んだら蘇らないというけれど、その死亡を確認するのが医師のお仕事でもある。それは胸に痛いほど知っている。
死亡宣告を受けた人の魂が存在するのかどうかは知らない。
けれども、その人が生きた余波は必ず残る。
残された家族でなくとも、その命の記憶はきっと誰かの中に刻まれるのだ。
その命の記憶で、誰かが良い方へ前向きに向かうことができるならば、きっと生きた甲斐がある。
彼女ならそう言って笑うだろう。

『ありがとうございます。僕はやっと答えを知った。』

鹿島先生が背筋を伸ばして立ち上がった。
それからいきなり床にガバッと正座をしたかと思うと、止める間もなく床に額を擦り付ける見事な土下座をする。

『すみませんでした…っ！！』

『ぅええっ！？』
『うわっ、な、何？』

その勢いにびっくりした俺たちが思わず２人で身を寄せ合って怯むほどの渾身の土下座だった。

『周芳野先生！申し訳ない！！僕は勘違いをしていた…。』