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奥邑さんは何を知っているのだろうか。
いや、そもそも何故今此処にいるの?まるで俺の危険を察知して駆けつけてきたかのように。
いくら手慣れた刑事と言えども、こんな頑丈な建物の個室にいて階下の事件に気付くなんて超能力者でもなければできる訳がない。


と、様々な疑問が噴出してきて黙り込んだ俺に、奥邑さんは落ち着いた声で話しかけてきた。

『《彼女》ってどなたのことですか?お世話係ということは…患者?』

若く小生意気な顔で、いつも面白くなさそうに窓の外を眺めていた《彼女》の姿が頭に浮かんだ。

『俺が研修医の時に循環器内科にいた女優さんです。海外で心臓移植を受ける為にうちで待機入院をしていました。
人工補助心臓を付けていたので動くこともできず…それでせめて食べたいものや欲しいものがあるなら叶えてあげたくて、少しだけお世話というか内緒でパシリをしていたくらいで…。』

『ああ…ひょっとして相原〜…エリさん!《ラブバイアス》ってドラマの。見てました!あの方…確か九州の方でしたね。博多弁使ってるのがなんか可愛くて。子役から急にセクシーなイメージになった時は驚いたなぁ。』


にこやかに相原さんのことを思い出す奥邑さん。
しかし、それとは対照的に鹿島先生は何故か突然顔色を変えて奥邑さんを睨み付けた。


『戸山だな?…何を聞いた?!!』


そう唸るといきなりツカツカと奥邑さんに近付いてきて、彼の胸倉を掴んだ。

『ネズミ!出て行けっ。』

噛み締めた歯の間から絞り出すような声。
思わずその腕を掴み奥邑さんから引き離すが、その腕を振り解きざまに思いっきり突き飛ばされる。
その勢いのままガンッと机の角でケツを強かに打った俺は悶絶。

『……ッ!』

『周芳野くん!!』

奥邑さんがまた胸倉を掴まれる。
だが刹那、それは起きた。


彼はぐっと強く自分を掴む鹿島先生の手首を握ったかと思うと、素早くその足を振って男の足を横から振り払い転倒しかけたところで、先程掴んだ腕をその背中に回しながらぐるんと反転させる。
それから前のめりにひっくり返る長身の肩を更にぐいっと押して完全に床にうつ伏せに叩きつけるや否や、ドンッと音が鳴るほど背中の真ん中を踏みしめた。


あまりにも鮮やかな逮捕術に目が覚めるような思いがした。
なんて美しい身のこなしなのだろう。惚れ惚れする。

『周芳野くん、大丈夫か!?』
『だ、大丈夫です…お尻を角で打ちましたけど。』
『よ、良かった…後で湿布貼りましょう。』

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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