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突如として純粋な怒りが彼の表面に現れた。
それは冷静ながらも鋭く研ぎ澄まされた氷の刃のようだった。
その目から光が消え、白い頬からは温かい血の気が失せた。笑い皺さえかき消される。
何処が変わったなんて言えないほどの微妙な違いだが、一瞬にして彼の表情筋はしばし動きを止めた。
全て凍てつかせるほどの冷たさを肌で感じて、俺はまた胸を大きく震わせる。
この氷に触れてはならない。
触れたら皮膚がくっついて離れなくなる。
………なのに、触れたくなった。
なんて興味深い人なんだろう。
温かな笑顔と冷たい怒り両方に一気に晒されて、俺の好奇心が疼いてたまらない。
本能が警鐘を鳴らしているのはとっくに分かっているのに知りたい。
知ったら……どうなるんだろう。
それから奥邑さんは、チョコを出した反対側のポケットから折り畳んだ書類を数枚取り出して、北山先生の前に広げる。
『…ま、俺にできるのは書類やデータの中から何かの歪みを見つけることくらいだけどね。
はい、コレは潤正医大附属病院の循環器内科で新旧合わせて心臓移植の必要性を診断された人と担当医のリスト。実際にドナーが見つかった人、亡くなった人もリストに入れてある。診療継続していない人は紹介状を書いた先もリストにしてる。
担当は確かに戸山が多いかも。でも彼だけがこの詐欺紛いな行為に加担した人間だとはまだ断定できないからもう少し調べさせて。』
『有休まだあんの?あんまり健康面に問題あるってなると出世しにくくなるんだろ??』
奥邑さんの笑顔が蘇った。
『んふ。前にも勝手に単独捜査して1度左遷されてるからな。気にしてない。どうせ忙しくて次の昇級試験は受けないつもりだったし。独り身なんでとやかく言う人もいないし。てか、入院したおかげで正々堂々昼間に寝られるのはありがたい。』
…あれ?結構アウトロー??
人は見掛けに寄らないとはこのことだ。
『じゃ、北やん。もう少しカルテ見せてね〜。』
『俺もやります。奥邑さん、指示下さい。』
コーヒーを入れ直した奥邑さんと一緒に立ち上がると北山先生は不思議そうに俺を見た。
『え…帰んないの?明日は…。』
『夜勤です。それに、俺は敷地内の寮住まいだからすぐ帰って寝られますし。』
そう。病院内でしか取り扱えないカルテを調べるなら俺は好都合な人間だよね。
『生きる為に臓器移植を待ち望む患者さんの為にも、こんなことは早く終わりにしなくちゃいけないですもん。善は急げですよね。』
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時