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話を聞きながら、膝が触れ合うほど近い席を選んで座った。小さな声で話してもいいように。
彼が少し俺の顔を見て、またコーヒーに視線を落とすのを眺める。
綺麗な横顔だなぁとこの場にそぐわない感想が湧き上がってきて、俺もカフェラテに視線を落とした。
『…で、お互いお仕事が忙しい職業なんだけど、フットサルの後に時間が合えばよく飲みに行ってたんですよね。仕事に関係ない他愛のない昔話とか漫画やアニメの話ができる友だちって感じかな?
ところが、こないだ焼肉行ったら、北やんが深刻な顔でこう言うの。《奥ちゃんて警察官だよね?教えてほしいんだけど。》って。』
奥邑さんの聞き心地の良い声がぐっと潜められる。
…そして、次の言葉を聞いて俺は驚愕した。
まさか、そんなことが自分の身の回りに起きていようとは。
ドラマや小説の中のこと…またはニュースでしか聞かないようなことで自分には関係ないと何処かで高を括っていたのだろうか。
相談室から外に出ると、大きな窓から見える景色は闇に沈み向こうの駅周りの賑やかな光がやけに目に付いた。
小1時間ほど話していた間に居残っていた医師や夕食の食事介助の為に遅番で出ていた看護士、介助士たちはほぼ帰ったのだろう。
静けさを増した廊下には数人の患者さんがいるが、総じて大きな音もない。ピコンピコンと同じリズムを刻む機械音の重奏が微かにナースステーションから漏れているくらいだ。
人の心臓の音…けれども機械を通すとそれはやけに無機質で、むしろ一抹の寂しささえ感じさせる。
『北山先生…お話聞きました。ありがとうございます。』
控え室にいた北山先生はコンビニの焼肉弁当を口いっぱいに頬張ったまま、俺を見て小さく首を横に振った。
『北やん…このまま相談室貸し切りにするね?』
俺の背後から控え室を覗き込んだ奥邑さんが声を掛けると今度はしっかり頷く。
『頼むわ。で、周芳野先生…協力してくれるの?』
『はい。俺にできることがあれば。』
せっかく秘密裡に事を運ぼうとしていたところに首を突っ込んだのは俺自身だ。
突っ込んだからには全身飛び込むしかない。
知ってしまったからには知らない頃には戻れない。
奥邑さんという人物を知りたいという欲求を抑えられなかった。
だけどあのままじゃ、きっと映画なんか頭に入ってこなかった。
『ありがとね?準備期間の段階で気付いてればもっと上手く処理できたんだろうけどさ、責任者としちゃ失格だよなぁ。』
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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時