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『なんや、イヤミか?』
『違〜う。』

唇を尖らせたお父さんのおハゲの頭に泡立てたしゃんぷうを載せ、わしゃわしゃ。

『俺はじいちゃんの孫なのにさ、知らないこと多いんだなぁって。ちっちぇえ時から信じ込んできたじいちゃんとは違う人物像を突きつけられた気がする。でもさ、じいちゃんにはじいちゃんの、俺の知らない人生があるのは当たり前だもんね?痒いところはございませんかぁ?』

お父さんがないと答えると、ミヤタさんは黙ったまましゃわあをタマさんに渡した。

『流しま〜す。…でさ〜、龍さんに聞いちゃったんだけど、ばあちゃんが死んだのはアヤカシへの代償だったってほんと?』


…………え?


まるでお天気のお話をするみたいにタマさんは言った。
でも、それはお風呂の温かい湯気のなかでも僕のお身体が凍りついてしまうほど衝撃的なお話だった。
話の端々からなんとなく浮かんではいたけれど、僕は考えたくなかったんだと気付くくらい。


お父さんは頭から浴びせられるお湯の中でしばらく黙っていたけれど、やがてゆっくりとお口を開く。


『…そうや。せやからお前には同じ轍は踏まんといてほしい。俺は弱い人間や。1人では何もできんねや。』


あ、認めちゃった…。


『聞かせて?ややこしい言い方抜きで向き合って。ちゃんと教えといてくれないと俺たち動けない。
俺は自分の仲間も家族も、勿論自分だって犠牲にするつもりは全くないから。
じいちゃんには思い出すのも辛くて苦しいことだと思うけど、いざという時に安全な術を探し出す為にもちゃんと話して下さい。』


タマさんが掛けるしゃわあのお湯の帳がお父さんのお顔を隠してる。
それはちょうどリュウさんのお水の檻にも似て…。

ふと、いつもおぶつだんの前にぽつんとおすわりしてたお父さんの姿が思い出された。
そこにお父さんの奥さんはいなかったけど、お父さんにはいたんだもんね?
奥さんとお話したかったんだもんね?
いつだって《縦四方固め》掛けてほしいくらい会いたかったんだもんね??

あんなに奥さんを大好きなお父さんが、本当に奥さんのことをアヤカシさんにあげちゃうお約束なんかするのかしら。アマザケみたいに。


『タマモリ、私からも頼むよ。お前の口から聞かせておくれ。言い訳がましくても構わないさ。泣き叫んでも恥と思わなくて良いよ。
だってココは《裸》になる場所なんだもの。』

トシコさんの声が優しくお風呂場に響く。

しゃわあの音はまるで春の雨みたいに柔らかい。

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作者名:みあん | 作成日時:2023年1月23日 0時

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