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『まあ、それに《たま》を形作るのは人間の愛した記憶や信仰心。生きる時間が短いからこそ熱量が高くなり力を集めやすいと人の世に預けられたのだろう。
戦いの中で相手の記憶が読めるようになるのも、ひとつひとつの記憶の中にその情の機微を探ることが得意な人間ならではの技であろ?』
ふとガヤさんがお手手を挙げる。
『神様が《たま》を持つと和を破るということは、以前に何かあったんですね?』
トシコさんのお顔が歪んだ。
『……かつて、あったのだよ。《たま》を手にしかけた方がいたのだ。だが…その方は神々によって征伐された。多分そこから《たま》を人に預けることになったようだが……。』
僕はふとある名前を思い出した。
キツネさん、その方が《カカセヲ》さん?それとも《アクラ》さん?
オニのぞんびさんが最期に叫んだお名前。きっとオニさんを蘇らせるほどの黒いもやもやを操れるお力を持つ…。
けれどもトシコさんは何故だかぎょっとしたお顔で僕を見る。
『………そうか。あの方なら…。』
そしてすぐにお首を横に振った。まるでご自分の中に生まれた疑念を振り払うかのように。
『いや、その方は封じられ、人心から姿を消した。つまり信仰されることがなければ神として存在することはできないはず…………神としては。』
《神としては》…そのお言葉が不安を煽る。
それは《神様ではない形》でなら存在し得るということかしら…?
『キツネさん、顔が蒼ざめてませんか?大丈夫??そんなに恐ろしい神様だったんですか?』
トシコさんのお背中を心配そうに摩るクラタさんに、彼女はまたお首を振った。
『私は知らぬのだが、人を巻き込むことを恐れない方だったと聞いたから……ありがとう、クラタ。』
トシコさんは何かに耐えクラタさんに笑顔を見せる。
僕は立ち上がり、トシコさんの足許に近寄ってお身体をぴったりくっつけた。
……緊張してる。爪先の筋肉が軋んでいるね?
キツネさんも《たま》のことを知ったのは最近のこと。
キツネさんは神様のお遣いだけど、全ての神様とお顔見知りではないんだよね。しかも神様でも詳しく知る方は一握りなんだって。
神様でも古くからいる方しか分かんないくらい大昔のお話なのに、キツネさんが思わずお身体を硬くしてしまうような元神様って、一体どんな方なんだろ??
『とにかくアヤカシを仲間にできればの話だね。茶飲み友だちと《たま》強奪未遂犯かぁ…出会い方が穏やかだとありがたいわ。』
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作者名:みあん | 作成日時:2023年1月23日 0時