Which? M ページ36
『やっぱりピアスしたら?似合うのに。』
タマが俺の耳たぶを弄りながら囁いてきた。
『ピカモンのでもいい?』
『却下。』
俺のうなじで笑う吐息がくすぐったくて、思わずピクンと身体が跳ねる。
後ろから回された腕はそっと胸板を滑り落ちた。
背中に重なる身体が温かい。
身体中そっと撫で回されてくすぐったい。
『メイクさんに勧められたんでしょ?アクセで大人の色気出るって。』
カラコン付けてたくさんアクセサリー付けて撮影したテレビ誌見たメイクさんが、感嘆の声を上げたことを思い出した。
『ん……ライブ始まるからつけてみようかな。でも派手すぎるのは嫌。タマとお揃いにしていい?』
『いや、それはあからさますぎないか?』
そりゃそうか。
ま、穴は空いてるんだよな。デビュー前にイケイケオラオラグループなんだから空けとけって言われてさ。
でも前の社長に《身なりが汚い》って言われてみんなおとなしめになって、俺はヲタクを前面に出したかったからちょっと今までアクセを避けてきたところはある。
そんな俺が、急にタマみたいな超高級ブランドを身につけるのは流石に気が引けるわ。
さくまに訊いてみようかな…さくまのグループがアドバイザーに就任したって言ってたブランド何だっけ。
タマの甘い腕に身を任せながら、ぼんやりそんなことを考える。
…と、急に耳たぶにチリリとした痛みが走った。
『…イテッ!タマぁ!?噛むなって。』
タマが耳を噛んだのだ。
振り返ると、タマはちょっとむくれてみせる。
『俺以外の人のこと考えてたもん。』
『なんで分かんの?!さてはテレパスか!』
『もぉ!すぐ白状した。』
一転面白そうに笑った嫁がすぐに真面目な目になった。
それから噛まれてまだ熱い耳に唇を寄せてくる。
『今は俺のことだけ考えて?』
ちゅっという音が何度も耳の中に直接入ってきて、すぐに頭がぼぉっとした。
タマのキスはいつも俺を骨抜きにするんだ。
……あ、確かキスの意味を持つ意匠があったな。丁度俺たちの名前にもぴったり。
ピアス、アレにしようかな。
俺たちは変わる。変わらなければならない。
ならば、より強く、より賢く、より美しく。
『左の耳のピアスは守るべきものがある勇者の証なんだって。』
ずっと左耳にピアスしてるタマが呟く。
…付けたら俺も勇者になれるだろうか。
タマ以外のことは何も考えられなくなる3秒前、俺は明日ピアスを買いに行こうと決めた。
fin.
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作者名:みあん | 作成日時:2023年1月21日 0時