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キツネさんが僕たちを見て優しく微笑んだ。
実はね〜、ずっとご相談してたの。朝と夕方のお散歩の時に…。
…キツネさん、《正義》ってなぁに?
お稲荷様のそばでは、朝の冷たい空気の中で八重の桜のちっちゃな蕾が暖かさの安定するのを待っていた。
キツネさんは小首を傾げて、僕のお顔を覗き込む。
《また小難しいことを悩んでいるのだねぇ。だが人間は…いや、神様たちでさえすべからく1度は考える。
だからこそ人間は【法】を作るのさね。それぞれの【正義】を全て加味していたのでは、皆が思い思いの【正義】を振りかざしてしまう。例えそのせいで苦しむ者がいても何でも許されてしまうことになるのでね。》
うん…人間は何もしてない人に暴力振るっちゃいけない【法】があるよね。それが【正義】…でもね、ネコタマさんは予防の為にクラタさんを…トシコさんに嫌われてもいい覚悟で、トシコさんの為にクラタさんを傷付けちゃったの。
僕、そんなネコタマさんに何もご注意できなくて。ネコタマさんにはそれが【正義】だったんだもの。
…キツネさんにとって【正義】ってなぁに?
少し考え込んだキツネさんのしっぽが、ふるんふるんとゆっくり揺れていた。
《……私は仕事上、己の《正義》はあまり持たないことにしているが…そうだねぇ。ひとつ例を挙げようかねぇ。
例えば、信仰はその教えが【法】でもあるから、一神教であればひとりの神の教えが信徒にとっては【正義】となる。まぁ、受け取り方や信仰への熱意にもよるが。
だが、この国は多くの神や仏や精霊たちがいる。よく八百万の神と言われるね?森羅万象全てのものに霊は宿り全てのものが神であるという信仰なのだよ。今現在残る神々様はその中でも信仰の力を集めた方々。
されどこの信仰には【法】がない。何故なら神様たちでもそれぞれに【正義】が違うから。
それでもね?全ての方に共通する大切な教えがひとつある。それは【敬うこと】。お互いに敬い合うことも自然の事象を敬うことも…そして今を創り上げた過去を敬うことも。
だから八百万以上神様がいても神様も信徒たちも共存できるのだ。
それを大切にすることが、この信仰の教えであり【法】と言えるのかもしれないよ。》
【敬うこと】が《正義》の根っこ…?
《愛することは相手を敬うことでもある。その根幹さえ胸にあれば、【正義】は自ずと定まってくるのかもしれないねぇ。まぁ、私の神様たちの話だから、全てにおいてそうではないのだけれど。》
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作者名:みあん | 作成日時:2022年11月27日 0時