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《ですが…私が彼らの世界に身を委ねてみたいと思ったことは確かです。物欲食欲色欲の奥に認めてほしいという欲が今だに息を潜めておりました。》
お父さんのお膝の上でマメダヌキさんのお身体はビクビクと震え出した。
『せやけど、あんさんは自分の答えを見つけたんやな？』
《分かりません。行に入る時は仏に近付けば全ての答えは出ると思っていた。色貪、無色貪に蝕まれていた。しかもつまりは欲界さえ抜け出ることもあたわず。
思えば…こうして誰かにただ抱き締めてほしかっただけなのかもしれません。》
やがて、黒いもやもやはすっかり失われてマメダヌキさんはただのタヌキさんへと還っていく。
ふかふかのしっぽがふるりと揺れて、先っちょの黒い毛がお父さんのお膝をナデナデ。
『あんさんも《たま》の一部になるんやで。美しい《愛した記憶》や。』
最後に狸さんはもう一度お父さんにぐりぐりと頭を擦り付けた。
『………いきなり場が収まった？』
『どうなっとんの？』
向こう側で呟く僕の大好きな人たち。
そのお言葉を聞いたからか、モモさんがすっと片手を前に突き出した。
お花の檻がしゅるしゅると音を立てて、モモさんの翳した手のひらへと吸い込まれていく。
お花吹雪が綺麗だな〜と見てる間に、気付けば僕たちはひとくふう荘のりびんぐに帰ってきていた。
ええ〜っ！窓枠…直ってる！？ガラスも割れてない！！
不思議不思議〜っ！！！
ヤギさんがそのガラス戸をそっと開けると一陣の柔らかな風が吹き込んでくる。
それに誘われたかのように、ちっちゃなタヌキさんはとことこと冬毛のお身体を揺らしながらお外へ出て行く。
僕はふと思い立って、とてててっと追いかける。
バルコニーの階段で僕を振り返るタヌキさん。
僕はそっとしっぽを振った。
ねぇ！隠しおやつあげる〜！
小屋の中から大好きなまるごとササミじゃあきいを取り出してタヌキさんの足許に落とすと、タヌキさんは少しお首を傾げてから恥ずかしそうにそれを咥える。
《…おおきに。》
知らない領域で大丈夫？
《多分…春やし、食べもんありそうやもん。》
そか。虫さんも出てくるもんね。隠しおやつ貯めておくからまた来ていいよ〜！
《ふふふ。おおきに。真っ当なタヌキの生活久しぶりやし精一杯楽しんでみるわ！》
うん！あ、酔っ払うのはほどほどにね？
《ほんまは酔うの懲り懲りやねん。》
綺麗なホンドタヌキさんは何度か振り返りながら、お山のほうへと走り去っていった。
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作者名：みあん | 作成日時：2022年11月27日 0時
