I need you！ (ページ32)

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Oh！No！ Ⅱ F ページ32

楽屋の隅、俊くんが壁を見つめて座っている。
白一色に見える壁紙に入った細かな灰色の模様……それを人差し指でゆるゆるとなぞっている。
ぼんやりした顔は、壁を見ているようで見ていないのだろうか。時折開けられる入り口のドアの音にピクリと反応するだけだ。

俺は台本を読みながら、その様子をチラチラ見ていたが、隣の千ちゃんにこっそり訊いてみた。

『千ちゃん、見えてる？』
『見えてるけど……放っておくに限るなと思って。』

完全に幽霊扱いでごめんね。
俊くんは時々、心が何処かへ飛んでいってしまうから。

バラエティや雑誌、歌番組。仕事が忙しくなってくると、少し飽和状態になるらしい。
生真面目で準備を怠らず、１つ１つの仕事に手を抜きたくない彼ならではの風物詩だ。

いや、勿論俺も準備に手を抜くことはないけどね。
そう言えば、昔、中井さんに言われたなぁ。

《バラエティ舐めてんのか？行き当たりばったりじゃなくて、台本読んで何個か展開考えてこいっ！》

それからは、しっかり台本を読み予習をしている。そのおかげか喋るお仕事も増えてきた。

でも、俊くんは頭がよく回るだけに、アレもコレもと考えてしまうのだろう。イジられ芸、スベリ芸に甘んじることを封印してからは、特にきっちり予習をするようにしたらしい。
ああ、あの頃は色々あったな……。

『俊くんのお薬は？』
『今日はドラマで遅れてくるみたい。』
『マジか～。特効薬来ないのか～。』

まあ、俊くんが不審な行動を取るのは今に限ったことでもない。
チャックやボタン、ネクタイを両手でずっといじってみたり、廊下でボーっと立ってたり、かと思えばじっとしてられない時もあるし。

最初は何でこんな動きをするのかと不思議だったけど、うん、慣れたな。

こういう時は放っておいても構わない。
別にいいんだが、お薬が到着するといつものニコニコ俊くんになる。
ニコニコ俊くんは俺たち全員の話に付き合ってくれるし、よく笑ってくれる。つまり俺たちの接着剤なんだよな。マジでありがたいの。
それに、そのほうが楽屋も賑やかになるから楽しいじゃない。

あ、お薬が来たぞ。

『やほ。間に合ったわ。』
『あ、タマぁ！』

俊くんの表情がころっと変わった。思わず千ちゃんと声を出して笑ってしまった。

………ね？もう賑やかになったでしょ？

fin.