I need you！ (ページ25)

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Jack Pot Ⅲ T ページ25

もう諦めればいいのに…。
いつもそうだ。一度決めたらとことんやる。例え、それが茨の道だと分かっていても。

ライブのソロ曲でバク転すると言い出した時は、こっちが怯んだ。
デビュー前、バク転の練習してて腕を骨折した宮田。実は背骨も少しやっちゃってて、しばらく宮田は動けなかった。

あの時だって、俺はどうしようもない無力感に襲われたっけ。
俺たちは舞台があったから、なかなか宮田のそばにいられなくて。俺は自分が宮田の役に立てなくて辛かった。

勿論、辛いのは宮田のほうだったと分かってる。舞台が大好きな宮田が、自分だけステージに立てなかった哀しみは想像に難くない。
だから、今回の挑戦は、きっと長年の抜けない棘を抜く為の挑戦。

『今なら、身体も作れたしできるかなぁって。今しか出来ない気がするんだ。』

応援したい……けど。

『今度こそ、王子様になりたいからさ。ファンにも、タマにも自慢してもらえるくらいの。』

暇を見つけてはバク転教室に通い詰めた宮田。たまに俺も車で送迎するついでに見学させてもらった。
大きなマットに向かい、真っ直ぐに走り込んでいく。何度も何度も走り込み、何度もコーチとマットに倒れ込む。思わず目を覆いたくなるほど危険な体勢の時もあった。
それでも努力の甲斐あり、１か月くらいすると、形がしっかり出来てきて、後はマットなしで着地できるかという段階に入った。

だけど、問題はそこからだった。
拭いきれない骨折の記憶が、宮田の邪魔をする。また何度となく倒れ、走り込んでは躊躇し、二の足を踏んだ。

ライブ前日まで宮田のチャレンジは続いた。
結局は振付師さんからのストップが入り、バク転は２回連続ターンに振り替えられた。

『……カッコ悪いなぁ、俺。』

宮田が俯いた。こんなんじゃ王子なんて程遠いなって自嘲する。

『……俺は惚れ直したぞ？』

レッスン室の壁際でお尻をきゅっとくっつけて座った。

『どこに出しても恥ずかしくない自慢の王子様ですけど？何か文句ある？』
『…タマ。』

マメを潰した手を取り、眺めた。愛おしい不器用な手。

『俺は知ってるもん。この手が尽くしてきた努力を。』

宮田はただ黙って、濡れた瞳で俺を見た。

『この手はいろんなこと乗り越えてきたじゃん。たまには諦めてよ。でないとカッコ良すぎる。』
『……ありがと。』

やっと微笑んだ頬には涙が伝っていた。

俺の自慢の王子様、愛してるよ。
その痛みが、俺の胸の痛みになるほどに。

fin.