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『えと…俺の名前は榎野本遼と申しますが。』

『あぁぁぁ〜っ!!リョウさんだっ。しかもやっぱりこの声!俺、あなたに救われたんです!!』


《救われた》??

飛び上がらんばかりの勢いで興奮した彼は、いきなり俺の右手を両手で包み込んで、顔を近付けてくる。


『あれから時が経つほどになんとなく会いたいなってぼんやり思ってました。何故か夢まで見ちゃって…あ、声だけだから《夢でまで聴いちゃった》かなぁ。』


俺は思わず若月さん嶺岸さんの2人と顔を見合わせた。
3人ともちんぷんかんぷんな顔だったせいだろう。コ・パイくんも慌てて両手を離した。


『そ、そうですよね……いえ、多分憶えてらっしゃらないとは思うんですけど。え〜と…榎野本さん、2〜3年ほど前に国内線に乗務されませんでしたか?』

あー、何度か乗ったな。
コロナで国際線が何便も運行停止になったり、特定の国へ飛んだ機に乗務した乗務員が帰ってきてもしばらく乗務停止になったり、濃厚接触者はかなり長期の休みを取らねばならなかったりとややこしかった。で、時々国内線にも振り分けられて応援乗務してたんだ。


『新千歳に着陸する際、霧が発生してゴーアラウンドになったんです。かなり長時間着陸許可が下りなくて…燃料も危なかった。お客様も不安だったと思います。その時、男性のCAさんが何故かクイズ大会を始められまして…。』

ハッと思い出した。

『とても丁寧に易しい言葉で、飛行機に関するクイズを幾つか出して英語でも解説して。
最初に飛行機を発明したのはライト兄弟だけど、日本でも少し早く発明しかけた人がいたとか、その方を祀る飛行機の神社が何処にあるか、何故飛行機は飛べるのか、この機体の大きさや客席の仕組み……

それから、最後に《みなさんコロナ禍で声も出せずアクションもできませんけど、たくさん頷いて下さっていたのできっと心の中で全問正解されたでしょう》とキャンディをサービスしてらっしゃいました。

俺、実はあの時気持ちばかりが焦っていたんです。顔には出してませんでしたけど、ダイバートするにはもう燃料が足らなかった。霧が晴れる一瞬のチャンスを逃す訳にはいかなくて、ずっと緊張してました。

けれど、あなたがお客様を落ち着かせようとする優しい声と柔らかな口調と楽しい雰囲気に俺まで落ち着いてきて…焦りと動揺を消した状態でランディングできたんです。

本当にとても勇気づけられました。ありがとうございました。』

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作者名:みあん | 作成日時:2022年9月13日 7時

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