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盗人たちも手を拘束して席に着かせる。
いくら盗賊団でも人命なので転がしておく訳にはいかない。大体転がしておくほうが邪魔…いや、これは内緒。
《おばあさま》はもう疲れきった顔でぼんやり足許を眺めている。靴は片方だけしか見当たらなかったので、脱いでスリッパにしてもらった。
靴があると誰かを踏みたくなるようだから…というのは冗談で、やっぱりいざ避難となると裸足のままでは危ない。本当はスリッパも危ないが、キタヤマさんいわくダイハードレディだから逃亡の危険を考えスリッパになった。
……まあ、これなら踏まれても痛くないな。
やっとCAが座席に落ち着き始めた。
俺は足の痛みに耐えながら最後の点検へ。
ファーストクラスの男性の高齢者のお客様…やっと起きたと思ったら、キャップにサングラスして、持ってきた男性アイドル誌に目を通していた。腕時計を盗まれた事情聴取の後も結局ひと眠りされていたっけ。
今はお仕事引退?…いや、まだまだそちらは休むつもりもなさそうだ。雑誌片手にメモを取っている。何の仕事だろ?
《仕事が楽しい》とお顔に書いてある気がした。
いろんなお仕事にいろんな人生……俺もこんな人にガイドに付いてもらうとカッコいいアイドルになってたのかも?
それでも、俺はこの仕事を今最高に頑張っている。
《惜しい》と言われ続けてもいい。
いや、決して《惜しい》自分を容認する訳じゃないんだけど。
いつか胸張って、いい仕事をしたぞと自分で自分を褒めてやれるように。
座席に座る為、コックピットの前で回れ右をした俺は、やっぱりもう一度振り返った。
《ツイテる》鞍田くんがいるドアの向こうに、また親指を立ててから踵を返す。
必ず君も俺にサムズアップしてくれてるはずだ。
それは確信。
準備して準備して準備して…この仕事に全てを懸ける俺たちの合言葉。
行こう。一緒に飛ぼう。
今、この空は俺たちの為に開かれる。
席に着き、機長に全て準備OKの内線を入れると、外には見事な黒い雲。中に稲妻さえ見える。
機体が大きく揺れ始めた。
『機体が揺れますが、飛行機の運航に支障はございません。ご安心下さい。』
なるべく穏やかな声でひと言機内アナウンスを入れておく。
本来ならこんな雲のそばには寄りたくないが、今は時間勝負。操縦室と管制は苦肉の策としてこのルートを選んだはずだ。
通常、操縦士は事前に気象予報や予測されている雲の流れを元になるべく揺れないルートを選択してから飛び立つ。
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作者名:みあん | 作成日時:2022年9月13日 7時