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それを鑑みずに考えたとしても、時間的に近いのはカンボジアだが、周囲に高度な医療を行える病院があるかどうかが大きな問題。
それならバンコク…1時間掛けてもそちらに飛んだほうが早く高度医療を受けられる。ダイバートするべきではない。


応急処置が終わったので、手を貸してもらって立ち上がってみた。
頭はもう大丈夫に思えた。足に鋭い痛みはあるが全身痛いとこだらけで、腫れまくってる膨満感のがキツい。動きにくい。


けれども今は動くしかない。
とにかくよろめきながらも機内電話に飛び付いた。


《キャビンチーフ、怪我は?》

機長は第一声で俺の状態を訊ねた。

『足を刺されましたが出血は少なく動ける状態です。おかげ様で犯人は全員拘束できました。ご配慮ありがとうございました。それで、私は医療上の観点からダイバートするべきではないと今考えたのですが、機長は?』

《俺もそう思って、予定通りスワンナプームに着陸することにする。救急搬送は手配済み。ただ、スワンナプームの天候が不確かだ。場合によってはドンムアンにダイバートできるよう管制に確認してもらっている。
スワンナプーム上空は雨季の為元々雲が厚いが、先程から更に雲が空港周辺に溜まってきているらしい。》


そうだ…今は雨季だった。
タイの雨季は6月から10月。スコールは夕方が多いけど、勿論夜にも降るのだ。大体30分から1時間ほどで雨は上がるが、ゲリラ豪雨のように一気に強く大量の雨を降らす為、その間は前も見えなくなる。
もし着陸時にスコールがあれば、しばらく待つかダイバートか…。


『了解です。とにかく重症者には酸素吸入を続けて異変があればまた報告します。』

《お願いします。……それと榎野本さん?まずは自分の身体もケアして下さい。君も倒れれば他のクルーの動きが鈍くなる。》


ごもっとも。俺の為に乗務員の手を割いてはいけない。指示は他の乗務員でも出せるようになっているけど。

『了解です。すみません。余計な気遣いごとを増やしてしまいました。』

《いや、ナイスファイトでした……だが、さっきからモニター見ては隣でコ・パイが泣きまくりでね。泣きながらも頑張って色々いじるから、鼻水で機器が故障しないかと…。》
《〜〜っ!機長!!言わないで下さいっ。》


町井機長って冗談も言うんだ…と思ったら、鞍田くんの鼻声が聞こえた。


……泣いてくれてるの?俺の為に??


職務を果たそうとしながらも、俺のことで涙が止まらないなんて…。

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作者名:みあん | 作成日時:2022年9月13日 7時

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