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男性は無表情で沈黙したまま、前方のギャレーへとアロハシャツを連行していった。
誰かって？
所謂《空の保安官》、通称スカイマーシャル。
以前から存在はしていたが注目されたのは、アメリカでの大規模航空テロ事件以降だ。
アメリカをはじめとする西側諸国は搭乗客の身体チェックの厳格化、機体のテロ防止機構の強化、乗務員への危機管理教育などの徹底した対策を取ったが、特に旅客機に直接乗り込む、謂わば武装警察官は話題になった。
日本では機動隊員やSATのOBから…テロ対策のスペシャリストたちが乗り込んでいたという。
ただし、テロ事件から数年は西側諸国着機に搭乗させていたが、テロの恐れが下火になったということで目立つ姿での搭乗は取りやめになる。
…が、制度自体が中止になった訳ではなかった。
実は今もこのスカイマーシャル制度は続いている。
全ての便に乗っているのか、搭乗者名簿から判断して乗っているのか、あるいはランダムに？？
メンバーも人数も所属も明かされない謎のお仕事。様々な憶測はあるけれど、存在だけは政府が担保している組織。
つまりは、その不確かな存在こそがテロへの《抑止力》なのだ。
………勿論、今回は彼が偶然この便に乗っていた訳ではない。
『…お騒がせいたしまして大変申し訳ございません。残りの空の旅はごゆっくりお過ごし下さい。』
一瞬の沈黙……その後すぐにキャビンは拍手喝采となった。
『コロナ感染防止の観点から大きなお声でのお話はご遠慮下さいませ……今だけ拍手は大きくても構いませんが。』
ニッコリ笑ってひと言釘を刺し、そっと嶺岸さんを片手で指し示しておく。拍手と注目は謎の男性客から、酔っ払いのセクハラに立ち向かった勇気ある若き女性CAに向けられた。
嶺岸さんはちょっと赤くなって、深いお辞儀で返す。
また人身御供に使っちゃった。嶺岸さんにも何か奢んなきゃ。
キャビンを見渡せば、どうやら機内のほとんどのお客様がこの中央エリアに来て見守っていたようだ。
あれだけ騒がれれば野次馬したくなるのは仕方ないよな。
と、ギャレーのカーテンの陰にいる若月さんと目が合う。
若月さんは頭の上でOKサインを出した。
他にも頭の上でOKサインを出した乗務員が３名。
それに頷き、席を離れたお客様を元の座席へ誘導するように嶺岸さん以外の乗務員に指示を出した俺は、とある１人の女性の元へと向かった。
『……お客様、お話がございますので申し訳ございませんがこちらへ。』
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作者名：みあん | 作成日時：2022年9月13日 7時
