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不思議に思ってドアを凝視すると、スパイホールで何かが動いていた。家の玄関ドアのようにコックピットから客席の様子を確認できるように魚眼レンズが取り付けられているのだが、はて?

恐る恐る小さなレンズを覗き込むと……小さく見えるのは…指?手のひら??
どうやら手を振っているらしい。
で、あちらもまたこっちを覗き込んだのだろう。一瞬目が出てきたと思ったら、驚いたようにすぐ引っ込んだ。そりゃそうだ。お互いに覗き合うのはなかなかインパクトある。


それからまたコココン。


…ああ、鞍田くんだ。
俺がドアに親指立ててるのをスパイホールかモニターで見たんだ。

ヤッベ!恥ずっ!!!1人で何やってんだと思われたかなぁ。完全に不審者じゃねーか!

するとまた、スパイホールに動くものが見えたから、ドキ.ドキしながら覗くと、親指が見える。
サムズアップだ。


………答えてくれたんだ。最初に挨拶した時のように、俺の声に応えてくれた。



《お互いいいフライトにしましょう!》

《………はい!》



まだこちらを覗いているかな?
ドアにニッコリ微笑んで手を振ってみせる。


話せてないけど話せた。思わぬコミュニケーションにまたまたきゅんとなって、そうっと片手で胸を押さえてみる。
あんなに苦しかった胸の痞えが下りて、鞍田くんから貰った温かさが優しく広がっていく。


あちらに着いたら素直にならなきゃ。
ごめんねとありがとうと…あ、連絡先の交換と。

そう思うとなんだかウキウキして、気持ちが弾んだ。

…もういいじゃないか、男に《恋》したって。
片思いと決まっていてもいいじゃないか。
きっと俺は鞍田くんのファンになったんだ。
ん。鞍田くんは俺の《推し》…それでいいし、それがいいよね。


ニヤニヤをなんとか微笑みに変えて、俺はまたキャビンへと足を踏み出した。




それからしばらくすると、またH40のお客様からお呼びが掛かった。
俺が行くと男性では威圧感があるから女性CAを呼べと言われた。…なるほど。ギリギリを狙う気だ。

『嶺岸さん、H40のお客様の対応お願いします。』
『私、中国語はできませんよ?』
『あの人、日本語分かるから。』

さっき日本人のお客様とお酒の話したのを聞いて同じものを求められた時、日本語を理解できていたし、しかも日本酒の辛口が分かるなら割と日本に精通していると確信した。
実は酒の甘口辛口という表現は日本独自の表現だ。特に《辛口》は本当の辛味ではない。

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作者名:みあん | 作成日時:2022年9月13日 7時

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