Divert !! (ページ12)

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『ヨコオさーんっ！？』
『遼くん、達者でにゃ〜。』

ヨコオさんは、長い足を活用して素早くそこから逃げるように立ち去っていく。

……四面楚歌かよ。

とにかく乗務後ブリーフィングを始めないと。
…逃げるのはその後だ。終わったら書類片付けるって走ってトイレに駆け込もう。

俺はそっと席について、コホンと咳払いをした。

だが、嶺岸さんの周りにいつの間にか集まった女性CAたちはかしましく他人の恋バナに花を咲かせ、俺の咳払いには全くビクともしなかった…。

結局、日誌も書いて、次のフライトの確認も終えて下に降りたのは１時間ほど後のことだった。
トイレの個室で日誌書いたのは流石に初めてだ。
…違う意味で疲れた。今日はチョコとアイス買って帰ろう。

……と、入口辺りに見覚えのある大型犬が立っている。
俺が思わず立ち止まりエレベーターに引き返す前に、大型犬は俺に気付いて大きく手を振ってきた。

『……あ、遼さん！お疲れ様でした。ハワイだったんですね。順調ないいフライトでしたか？』

《遼さん》…下の名前呼び？早すぎねーか？？
だが屈託なく笑う顔はやっぱり可愛い。
つられて俺まで笑ってしまう。

『あ、ども〜っ。いいフライトでした。…あの、なんか俺を訪ねてきて下さったとか…？』

『はい。あ、えっと、あの…その…お、俺、福岡便だったんですけど…明太子せんべいもらったんです。た、食べませんか？』
『明太子せんべい！美味そうっ。…へぇ〜、マヨネーズ味。誰にもらったんですか？』
『清掃員の方です。以前、清掃ワゴンが倒れたとこへ出くわしたんですけど、片付けるの手伝ったら覚えてて下さったみたいで。』

恥ずかしそうに俯いて、手に持っていたビニル袋を上げてみせる。大きめのピンクの箱が目に入った。

そうか。自然と誰かを助けることが身についている人なんだな。感謝されることも知っている。
だから、俺にもお返しするのが当たり前なんだ。
ちょっと残念かな…。

………は？待て待てっ。《残念》て何だよっ？

ダメだ。まだ自分の気持ちが理解できてねーな。流されてるわ〜。
冷静になる為にも少し話題を変えよう。

『…鞍田さんもいいフライトだったんですね。どうですか？ナナハチ。』

『それが……俺、どうもフライトになるとハプニング起きやすくて。何なんですかね、飛行神社にお祓い行こうかな。』

鞍田くんはポリポリ首の後ろを掻きながら溜め息をつく。
どうやら無事ではなかったらしい。