16 ページ16
闇が炎で青く染まる。
深かった闇は朝靄が晴れていくように薄くなり、彼の記憶が瞳の奥に映し出される。
僕の目には見えた。泣き叫び砂を掴む男の姿が。
裏切られたと呟きながら毎日のように女から贈られた本を開き、閉じ、また開き、壁に叩き付け、また開く。
ひと夜の交歓の思い出に縋り、啜り泣き、また本を開き…。
夢か幻と忘れようとしても、また哀しみに引き戻す１冊の罠に男は囚われて抜け出せなくなっていた。
彼の哀しい想いを込めた本は、やがて力を手に入れツクモガミと化す。
本に閉じ込められた《愛した記憶》は、そのままその本の記憶となり、贈られた献辞の通り愛と《憎しみ》へと転化する。
その時、ふと僕は気付いた。
僕を彼から引き剥がす優しい手に。
『吾妹子、ありがとう。後は私に任せておくれ。』
見上げると、キタヤマさんが少しだけ哀しそうに笑ってみせた。
僕がいた場所にはまだ青い炎が燻ってる。
その中心にはさっきのご本。カサカサと音を立てて燃えていた。
僕を抱っこしたままで、キタヤマさんはその炎にお手手を翳して呟いた。
『申す。北山.宏光が申す。たまのはしらのたまにて清められし《憎しみ》の火をお封じ申す。』
炎が一瞬燃え盛り、ご本はバラバラになって白い灰になる。
炎の青い光が消えた時、そこにはもう何も残ってはいなかった。
『…………一体、何が起こったの？ドンブリはどうなるの？？』
センガさんの呟きに、タマさんが吠える。
『キツネっち！トシ子ちゃんは…ネコタマは…ドンブリは…全部、全部説明しろよっ！！』
『タマ…。』
ミヤタさんがそっとタマさんのお肩にお手手を置いた。
『今はまだ待っておくれ。この子たちを休ませてあげたいのだ。』
キタヤマさんの腕の中で、僕はうとうとし始めていた。
たくさん考えなきゃなのに、なんだかとってもおねむなの。
…んん？お腹も空いてます。ぎゅるるんってお腹鳴っちゃう。キツネさんに聞かれちゃったかしら？？
朝ご飯食べてないもんね〜！
あ、ネコタマさんがお身体起こした。
良かったぁぁっ。ご無事だったみたいです。
トシコさんも……。
僕のお耳には、遠くのキュウキュウシャのさいれんが薄っすら届いてくる。
……ねぇ。お父さん、僕おねむだよ？
キタヤマさんのナデナデも大好きだけど。
今はお父さんのおっきなお手手でナデナデしてほしい気分でしゅ〜…。
僕は温かいキタヤマさんの胸に抱っこされながら、そうっとお目目を閉じた。
fin.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みあん | 作成日時：2022年7月10日 1時
