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僕は彼女の元へ走って帰って、ささみ巻きのガムを床に置いて、しっぽを振った。
これが今日の僕のひと工夫かな?
コレ、僕のおやつ!使ってみて?
《使う?》
道具として使うの。
《…道具?あなた、人間みたいなことを言うのね。コレは食べるものよ?》
今、食べたくないでしょ?
《……分かった。人間の指みたいに使えってことね?》
彼女は、細長いガムを横に咥えて、また立ち上がった。
フタの上からガムでボタンを押してみる。
何度か滑ったけど、彼女は諦めずにやり続けた。…そう、大好きな人の為に。
やがて、カチリとちっちゃな音がして、ガチャリッと廊下の突き当たりからも音が聞こえた。
壁の端が少しズレて、鼻先が入るほど隙間が開いたの!
…ひやぁ、ほんとに隠し部屋だぁ!
タマさん、お家にも作ってくれないかな?ガムとか宝もの隠すのに丁度いいのに〜。
《ヒカルくん!!》
彼女は矢も盾もたまらず中へ押し入ろうとしたけど…ちょっと待ってね?
センガさんの匂いもするのに、まだヒカルさんを助けるどころか出てもこない?僕がガム1本食べきるくらいのお時間は悠にあったのに…。
ねぇ?ヒカルさんの為だと思うならお願い!僕の飼い主たちを呼んできて?
《あなたが行けばいいのに?》
僕のほうがちっちゃいから、ココではきっと相手に気付かれにくいでしょ?あなたはおっきいから、ヒカルさんを助ける前に見つかっちゃう。この中には僕の大切な人もいるの。だから絶対ヘマはしたくないの。
彼女は一瞬戸惑った。
分かるよ。僕だって大切な人を置いて、この場を離れたくないもの。でも、今は離れて?
《…分かった。すぐに呼んでくる!》
あふがんはうんどさんは、くるりと踵を返して全速力で廊下を走り抜けていった。
これで少し安心。あのセンガさんがお手手をこまねいている相手に暴走しても、きっと良い結果は出ないもんね?彼女にお怪我でもされたら、それこそヒカルさんが苦しんじゃう。
それから僕は、そっと隙間に鼻を入れてみた。
あの男の人たちだけじゃない、他にも何人かの匂いの残り。でも、今いるのはヒカルさんとセンガさんと…もう1人。やっぱり若い男の人。
新しい血の匂いはしないから、ここではまだ誰もお怪我してないね。良かった。
『……そろそろ、ソレ下ろしてよ。怖いからさ〜。』
あ、センガさんのお声!
『ヤダー。侵入者の立場で怖かろーと文句言うなよー。』
ん?このお声…。
『撃つつもりもないんでしょ?』
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作者名:みあん | 作成日時:2021年10月26日 1時