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『北山っ!!』
今度はガヤさんのおっきなお声が岩場に響いた。
そのお声があの人をかき消した。こちらのアヤカシさんの力が、もう届かなかったのかもしれない。
キタヤマさんは、その場にうつ伏せにどうっと倒れ込む。
『北山!しっかり?!大丈夫かっ!』
『北山さんっ!』
走り込んできたのは、ガヤさんとニカさんとセンガさん。
『怪我はねぇ…北山!北山っ!!』
ガヤさんが北山さんの身体を揺すり、名前を呼び続け、センガさんが立ち上がり周囲を見渡し、ニカさんはキタヤマさんとガヤさんを守るように両手を広げている。
《キタヤ…マサンッ!…ケガワナ、イ!》
僕に噛み付かれ、アヤカシさんはイヤイヤと暴れながらもガヤさんたちの言葉を繰り返した。
《シッカリ…シッ、カリ…!!!》
さっきから誰かのお言葉を繰り返すだけ。自分のお言葉がないの。
それはひょっとして、愛した記憶も?
まさか、あの人の愛した記憶を自分の記憶として楽しんでたの?
やがて、アヤカシさんはフラフラとそばの木に背中をついた。僕は噛むのをやめて、地面に飛び降りる。
《…アイシ。テル。イッショ、ニ……?》
アヤカシさんは、そのおっきな木に吸い込まれるように消えていった。
…ねぇ?あなたはどうしてあの人を選んだの?
僕は荒くなった息を鎮めながら、くるりとその木を回ってみた。
………そして見つけた。
あの人が着ていたお服の切れ端。
寂しくなるほど誰かを愛した人は、ここにいたんだね?あなたはその記憶を取り込んだのね?その愛ではなくて、ただ寂しさだけを。
…噛み付いて、ごめんなさい。もし、良い取り方をするならば。
僕とは違う考え方だけど、あなたはあなたなりにあの人の記憶を取り込んで、その想いを叶えようとしたのかな。
…………あ、いや、まあ、良いように取っても悪いように取っても、めちゃくちゃ迷惑なことには変わりないんですが。正直とんでもなくダメなことですからねっ?
あなたがたアヤカシさんのお約束は存じませんが、僕たち動物のお約束では《行けないとこには行かない》。
誰かの愛の記憶の為に、他の誰かの愛の領域に足を踏み入れてはいけない。そう思いません?
どちらにせよ、それはお互いにまた新たに飢えるような苦しみを生み出すだけだと思うの。
だから2度とこんなことしちゃダメ!!
でないと、また噛み付いちゃいますよ〜??
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作者名:みあん | 作成日時:2021年10月26日 1時