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キタヤマさんには薄く視る力があっても、抵抗したり、祓う力はないみたい。
だから、ぐい〜っとあの人がキタヤマさんの間近に擦り寄りキタヤマさんの襟首を掴んでも、キタヤマさんには何もできない。
途端にキタヤマさんの足が竦んだ。カタカタとキタヤマさんの歯が震えて鳴り出した。
そりゃそうです！あの人のお目目は真っ暗なただの穴。お目目がないのっ！！！どこまでも深いただの闇。
怖いからっ！怖すぎるから〜っ！
……つまり見ているようで、彼には何も見えていない。じゃあ、どなたが見ているのっ？
そして、あの人がおっきくお口を開けた。
おっきく、おっきく、おっきく……。
お顔の半分以上がお口になって、キタヤマさんのお顔を！！？
『うあぁぁぁっ！？』
僕は、それでもお耳を懸命にすませる。
ごめんなさい、キタヤマさん。でも、今、僕がするべきことは、あの人に躍りかかって噛み付くことじゃない。
もう少しだけ耐えてっ！
《ウアァァァッ…。》
僕のお耳が捉えた微かなお声。
楽しそうにほくそ笑むお声。
僕は矢のように飛び出した。
大きな木の陰。座り込む黒い影。
ほっぺにお手手当てて、キタヤマさんとあの人の姿を三角座りで眺めてる。
……楽しいの？
誰かを愛した記憶を利用して、何も分かんなくて知らない誰かを傷付けることが楽しいんだ？
………じゃ、手加減は要らないねっ！？？
僕は黒い影にガブリッ！！！
警告もせずに渾身の力で噛み付いた。長い黒い腕に噛み付いて、ちぎらんばかりに首を横に振り回す。
《ウアァァァッ！？》
また、僕は意志を持って誰かに噛み付いた。けれども今回は全く苦しくない！
あなたを痛くさせたい訳じゃない。
でも、あなたの力を奪う為なら、この僕のちっちゃな身体の力が全て尽きたとしても惜しくはない！
アヤカシさんだから？…ううん、違う。
もうこれ以上、誰かの愛した記憶を哀しみや憎しみの記憶に塗り替えないでっ。
好き勝手に力を与えて、あの人が生きてた間に誰かを愛した記憶を弄ぶ資格なんて誰にもないのっ！
お父さんが僕を愛してくれた記憶も、
ミヤタさんとタマさんの愛し合う記憶も、
キツネさんが時間を超えて誰かを愛する記憶も、
７人が互いの幸せを大切に愛する記憶も、
僕が彼らを大好きな記憶も
あの人が命消えても寂しいほどに誰かを愛していた記憶も。
誰かの《お遊び》の為に、汚してはいけないの。
だって、どれもこれも、ただただ純粋で美しい感情の記憶なんだものっ！！
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作者名：みあん | 作成日時：2021年10月26日 1時
