二重人格…N.D ページ2
「ふわぁ……朝や……っ…」
あぁ、またや。
またやってもうた。
変な形に潰された枕。
落ちて粉々になった写真立て。
壊れて土まみれの小さな植木鉢。
ボロボロになった壁。
所々に血がついてる家具たち。
もう部屋の中はぐちゃぐちゃ。
やのに、やっぱり何も覚えてへん。
起きてぐちゃぐちゃになった周りと傷だらけの腕を見て、初めてやってしまったんやと気づく。
痛みもない。
これだけ暴れて、カッターで腕を傷つけて…当然、痛みやってあるはずやのに。
「いたっ…」
思い出そうとすれば頭に激痛が走る。
あるんはその痛みだけや。
そう、俺はいわゆる「二重人格」。
前まではこんなんやなくて、普通の人間やった。
おとんとおかんに愛されて、何の変哲もない、普通の家庭で育った。
そんな俺が、家族が狂ったんは、おとんの浮気が発覚した時やった。
それで、おとんとおかんは離婚して、俺の親権はおかんになった。
まだ小さかった俺は、離婚してもおかんは優しいと思っとったし、おとんがおらんだけで、それ以外は何も変わらないと思っとった。
やのに、それから始まったんは地獄やった。
あんなに優しかったおかんが俺を邪魔者扱いし始めたんや。
おとんに似とるからやって。
ただそれだけの理由。やけど、おとんの浮気の発覚と離婚で、憔悴しとったおかんには十分やったんやろうな。
そんで、小さな俺じゃそれに耐えられる訳もなく、二重人格になってもうた。突然やった。前兆なんてなかった。
毎日、夜中になれば、暴れまわって、部屋を荒らして、自分を傷つけてまう。翌日になれば夜中の記憶は無くて、ぐちゃぐちゃの部屋の中で平然としている。
そんな俺を恐れたんか、おかんは俺を部屋に閉じ込めるようになった。
会話なんてもんはあらへん。
せやけど、食べるもんも着るもんも、生活に必要最低限のもんは用意してくれとった。
やから、俺は自分がおかんに愛されとるって信じて疑わなかった。
まだあの時みたいに優しいおかんがおって、俺を愛してくれとるって信じていたかった。
現実はそう甘くはなかってんけどな。
「架空の愛」と「現実」が交差する毎日。
それに比例して加速していった“俺”の覚醒。
なぁ…夜中の“俺”は一体だれ？
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作者名：愛狐*あこ* | 作者ホームページ：https://twitter.com/ako__uratsuku
作成日時：2023年6月28日 14時
