不協和音【9K】

頻尿ーizwー ページ34

最近、トイレが近い。

家にいても、オフィスにいても、テレビ局にいても、30分に1回くらいのペースでトイレに行きたくなる。

家やオフィスならそれでもまぁどうにかなるんだけど、テレビ局で収録してる時が最悪で。

始まる前に行ったとしても必ず途中でトイレに行きたくなるから後半になればなるほど思考がトイレに支配されていく。

病院に行った方がいいのは分かっているのだが、忙しさと気恥しさからなかなか行けない状況が続いていた。


そんなある時、テレビ局から福良さんと戻るタクシーの中でトイレに行きたくなってしまった。

テレビ局を出る直前トイレ行ったのに……。

まぁすぐ着くだろうから、と我慢することを選んで少しして、タクシーのスピードがグッと落ちた。


｢……どうしました？｣

｢どうも事故みたいで、ちょっと迂回しますね。｣

｢分かりました。お願いします。｣


鞄を足の上に置いているのをいい事に、運転手にも福良さんにも見えないようにぎゅっと力を込めた。

タクシーが進路を変えて少しして、再びスピードが落ちてしまった。


｢すみませんお客さん、どうも迂回ルートに車が集まってるみたいで少し時間かかりそうなんですけど、大丈夫ですか？｣

｢大丈夫ですよ。｣


大丈夫か、と聞かれて反射的に大丈夫だと答えたけれど、実はあまり大丈夫じゃない。

カメラの前なら緊張感もあって自然と我慢できるんだけど、今はそんなのないし本当に辛い。


『体調悪い？』


福良さんがスマホのメモで示してきたので、首を横に振る。
むしろ体調悪い方が良かった。その方が耐えられるし。


俺がトイレに行きたいことを自覚してからはや15分。

まだ渋滞に捕まっていた。


｢あの、この渋滞どれくらい続きますかね。｣

｢うーん、あともう少しで抜けると思いますよ。｣

｢分かりました。｣

｢……伊沢、どうした？｣

｢ん、まぁ、ちょっとトイレ行きたくて。｣

｢渋滞抜けたらコンビニ行く？｣

｢いや、大丈夫です。これ抜けたらすぐオフィス着くでしょ。｣


ひそひそと声を抑えて話す間も、欲求の声はどんどん大きくなっていて、本当ならコンビニに寄りたいところ。

だが仮にもタレント業もしている身なので、余裕を持って行くならともかく我慢の限界で駆け込むのは避けたかった。

＿＿＿＿→←＿＿＿＿

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す